日本でも急速に普及し始めた電子契約。そのなかで、顧客向けサービスとして展開しつつ、社内でも活用しているのが、不動産情報サービス業のアットホーム(大田区、従業員数1586人)だ。
不動産情報サービス会社として、「不動産会社間情報流通サービス」「消費者向け不動産情報流通サービス」「不動産会社の業務を効率化するサービス」を展開する同社は、アドビ システムズ(アドビ)と業務提携。電子署名サービス「Adobe Sign」をベースにした電子署名サービス「スマート契約」を開発、2018年6月からサービスを提供している。
不動産業界では、賃貸借契約における重要事項説明にITを活用する“IT重説”、仮想現実(Virtual Reality:VR)を活用した“VR内見”など、新しいテクノロジーの活用が進んでいる。
法規制の緩和もありデジタル化が始まりつつあるが、不動産業界は基本的に今でも紙と電話、ファクスと対面が主流であるという。
PDF化でアナログな業務プロセスを改善
そのような状況のなかアットホームでは、自社ネットワークに加盟する約5万7000店の業務を効率化させるためのサービスメニューとして、物件確認や申し込み、重説、賃貸管理、内覧などのITサービスを展開。スマート契約もその一環だという。アットホーム 基幹サービス開発部 部長の原雅史氏は、「特に契約業務は、物件の申し込みの際にはハンコが必要で書類も多い。それがファクスで送られてくる。字が読み取れず確認業務に手間がかるなど、人手がかかる仕事」と、不動産業における契約業務プロセスの非効率性を指摘する。
そこで同社では、2017年に電子契約サービス開発の検討に入った。当時はまだ日本に海外ベンダーの電子契約サービスが普及しておらず、パートナーシップの構築を前提に自ら4社にアプローチ。その中で企業の中立性や日本での事業展開、さらに活用時のわかりやすさと安心感という部分を評価し、アドビをパートナーとして選択した。
「不動産業界でもPDFは誰もが知っているドキュメントのフォーマット。セキュリティ性が凄く高く、それをベースに承認機能が載っている。法的有効性があり改ざん性が低いという強みがあり、メッセージとしてアピールしていくためPDFを作っているアドビ社と組むのが自然。当社の営業担当者も、顧客である不動産会社に対して伝えやすいというメリットがあった」(原氏)
契約更新に費やす期間が3カ月から1週間に
サービスの適用範囲は、宅建業法の中で書面の取り交わしが条件とされている新規の賃貸契約を除外した、「賃貸物件入居者の更新契約」「退去時の証明」「オーナーとの媒介契約」「駐車場契約」となっている。
契約業務の電子化により、従来の紙の書類作成にかかる人件費、印刷費、郵送費といったコストやリードタイムの圧縮効果が見込めるという。更新契約の場合のスマート契約の具体的な導入効果として、郵送回数5回の計算で郵送費が1件につき1025円かかるものが半分以下になり、契約締結までの時間は、従来の3カ月から1週間程度に短縮できると試算。駐車場契約の場合、郵送回数4回計算で郵送費が1件につき820円かかっていたものが半分以下、契約締結までの時間は1カ月から3日程度に削減できるとしている。
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