中外製薬、データ活用基盤にAWS採用--デジタル活用で新たな医薬品の創出へ

大場みのり (編集部)

2020-07-16 11:00

 アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWS ジャパン)と中外製薬は7月15日、製薬業界におけるデジタル変革(DX)の取り組みについて、オンラインで説明会を開催した。中外製薬は、自社のデータ活用基盤「Chugai Scientific Infrastructure(CSI)」にAWSのクラウドサービスを採用している。

 同社はがん領域の医薬品を中心に手がけており、国内では2019年時点で16.4%とトップシェアだという。2019年に中期経営計画「IBI(Innovation Beyond Imagination)21」を開始し、その戦略の1つとして「個別化医療の高度化」を掲げている。具体的には、デジタル技術を活用して個々の患者に適した治療を行うとともに、それを可能にする医薬品を開発していくという。

(出典:中外製薬) (出典:中外製薬)
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 また2019年10月には「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」として、経営方針に基づいたデジタル戦略を明らかにしている。この戦略について、中外製薬 執行役員デジタル・IT統轄部門長の志済聡子氏は「まずはデジタルを活用し、革新的な医薬品を創出する。そしてその投資を最大化するためにも、研究から開発、生産、営業に至るまで、あらゆるバリューチェーンを効率化していく。こうした取り組みにより、Unmet Medical Needs(まだ治療法が見つかっていない疾患に対するニーズ)を満たしたり、患者のQOL(Quality of Life)を向上させたりすることにつなげていきたい」と説明した。

 新薬創出の取り組みでは特に、AI(人工知能)を活用した創薬、RWD(Real World Data:日常的な診療で収集されるデータ)/RWE(Real World Evidence:RWDから導かれること)による開発プロセスの革新、デジタルバイオマーカー(デジタルデバイスから取得される人体についての指標)を用いた臨床成果の可視化を目指すとしている。

(出典:中外製薬) (出典:中外製薬)
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 CSIは、大容量のデータを安全に利用・移動・保管するためのIT基盤。同基盤により、社内データの部門横断的な活用、病院など社外との共同研究プロジェクト、データの安全な取り扱いなどが可能になるという。中外製薬は、2020年末までに社外の研究者と100件の共同研究プロジェクトを運用できる研究開発環境をCSIに整備することを計画している。

 同基盤ではAWSのほか、構成管理ツール「Ansible」、プロジェクト管理ツール「Atlassian Jira」、ソースコード管理ツール「GitHub」が利用されている。AWSを採用した理由について、志済氏は「技術志向で選んだ」と説明。具体的には、「他のクラウドサービスと比べてログ取得のレベルが深く細かい」「コストが毎年下がっていく」「情報が広く公開されており活用することができる」、という点を評価したという。

 CSIの活用例としては、医療機関などのパートナーから取り扱いが難しいデータの受け渡しを大容量かつ安全に行う。また、収集したデータを基にさまざまな解析や協業に取り組むとしている。

 同説明会には、AWS ジャパン 技術統括本部長 執行役員の岡嵜禎氏も登壇。同氏は「CSIに求められる主な要件は、AWSのテクノロジーによって解決できる」と話した。例えば、共同研究先からのID・アクセス管理には、共同研究ごとの専用環境と多要素認証を提供。また、外部との安全なデータ転送・共有には、ネットワーク・データ転送関連のサービス群があるほか、やりとりを可視化するログ機能も用意しているという。

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