業務のデジタル化ではない--「コロナ禍で10年早まった」で考えるべき地銀のDX

阿久津良和

2020-09-16 06:45

 フィンテックのサービスが生まれやすい環境に向けて活動する業界団体のFintech協会は「地方銀行のDXを推進するフィンテックサービス」をテーマにした記者向け勉強会を9月11日に開催。理事の神田潤一氏(マネーフォワード執行役員)は「ユーザーの行動変容はコロナ禍で10年以上早まった。地方銀行にとってコロナ禍は大きなピンチだが、同時に大きなチャンスでもある。そのためにはデジタライゼーション(デジタル化)ではなくデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略が必要」だと述べている。

 ウェルスナビ(渋谷区)は、2016年7月から目標を設定するだけで従来の資産運用手順を自動化するロボアドバイザーサービス「WealthNavi」を提供している。自社と提携パートナー経由での預かり資産は2020年9月時点で2900億円に達した。

ウェルスナビ 代表取締役CEO 柴山和久氏
ウェルスナビ 代表取締役CEO 柴山和久氏

 ウェルスナビ代表取締役で最高経営責任者(CEO)の柴山和久氏は「終身雇用時代は働く世代の資産運用需要は乏しかったが、社会構造の変化により、働きながらの資産運用が大切な時代になっている」とコロナ禍における資産運用の重要性を強調した。

 コロナ禍でS&P 500指数は2月20日時点の108ポイントが、3月23日は71.3ポイントまで下落したが、WealthNaviユーザーの97.3%が利用を継続しているという。同社は2019年10月に北國銀行と「北國おまかせNavi」、2020年9月に岡三証券と「岡三Naviハイブリッド」をスタートさせたように、パートナービジネスに注力してきた。

 そのポイントがハイブリッド型だ。人間のアドバイザーによる手厚いサポートと、資産運用を自動化するロボアドバイザーを組み合わせることで、対面アドバイスによる長期投資のハードルを下げ、少額からの資産運用、ライフプランに沿った幅広いアドバイスを提供できるという。

 「中長期的には顧客との信頼関係を構築する目標を持つ地域金融機関とのパートナーシップ強化を目指す」(芝山氏)

freee 執行役員 兼 freee finance lab CEO 小村充広氏
freee 執行役員 兼 freee finance lab CEO 小村充広氏

 個人事業主と中小企業に代表されるスモールビジネス向けに、統合型のクラウドベースの統合基幹情報システム(ERP)や統合型人事労務のクラウドサービスを提供するfreee(品川区)は、スクレイピング接続とAPI連携で1000を超える金融機関と連携している(2020年8月12日時点)。

 新しい金融サービスを生み出すために同社は地銀のDXから着手し、中小企業のDXを実現するためのコンサルティングやツールを提供。その上で地銀や中小企業のさらなるDXや新たな金融サービスの創出を目指す。

 また、地元密着型の地銀が不得手とするスモールビジネスユーザーや、「年間12万社といわれる新企業」(同社執行役員 兼 freee finance lab CEO 小村充広氏)など新規市場の開拓を通じて、オンラインレンディング(オンライン融資)やコンサルティングビジネスへの進出を計画している。小村氏は「(コロナ禍で)地銀の経営者や担当者による『DXの必要性』が高まっていることを実感している」と語った。

北國銀行 マーケティング部 資産運用課 福田雅之氏
北國銀行 マーケティング部 資産運用課 福田雅之氏

 石川や富山、福井の3県に店舗を構える北國銀行(石川県金沢市) マーケティング部 資産運用課 福田雅之氏はDXについて、「単に従来の業務のやり方を電子化、ペーパーレス化するのはDXではない。われわれは技術活用だけではなく、意思決定プロセスや権限、組織文化など広義の働き方など、銀行をデジタルで根本的に変えていくことだ」と定義付けている。

 前述のとおり同行はウェルスナビと提携し、自社アプリケーションを提供しているが、同行の投資信託金額約830億円中、約28億円が北國おまかせNavi経由だという。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ZDNET Japan クイックポール

注目している大規模言語モデル(LLM)を教えてください

NEWSLETTERS

エンタープライズ・コンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]