新潮流Device as a Serviceの世界

PC運用に使うIT資産管理ツールはこれからも必要か

松尾太輔 (横河レンタ・リース)

2020-10-30 06:30

 前回は、日本独特の「LCM(Life-Cycle Management)」サービスについて説明しました。欧米にPC運用をワンストップで提供してくれるサービスがないわけではないのですが、「Managed Desktop」という名称が一般的な気がします。LCMサービスという名称は、日本独特と言えます。それと同じように、日本で独特の進化を遂げたPC運用ツールが「IT資産管理ツール」です。今回は、このIT資産管理ツールがDevice as a Serviceの時代にどのような位置付けになるか、ということを解説します。

 1990年代に日本企業でPCが導入され始めた頃、PCはとても高価なモノで、きちんと管理する必要がありました。コンプライアンスやセキュリティのための管理というよりは、資材としての管理です。高価なモノなので、なくしては大変です。

 さらに、1人1台のPCを割り当てるようになると、新しい人が入社してくる度にPCをセットアップして渡す必要があります。在庫があればそのPCを使い回し、足りなければ新規で買い足し、人が辞めれば在庫にする、古くなったら廃棄するーー資産管理というより在庫管理が大変になり、そのためにExcel表で管理するよりも楽になるのではないかということで、IT資産管理ツールは広まりました。PCを買ってから廃棄するまでライフサイクル全般を支援するという意味合いでLCMという言葉が生まれ、サービスとして定着していくことになります。

 その後、企業におけるIT活用が進む中で、PCで使うソフトウェアの不正使用が問題になり始めます。MicrosoftやOracleなどが本格的に対策へと乗り出し、悪質と判断した企業に損害賠償を請求し始めます。企業として意図していなくても、従業員が軽い気持ちで不正使用し、企業が多額の賠償請求をされる例が発生しました。ソフトウェアのライセンス管理、ソフトウェアの資産管理(Software Asset Management=SAM)の重要性が高まります。

 IT資産管理は、ハードウェアの資産管理からソフトウェアの資産管理に軸足を移します。ここまでは、資産管理ツールという名前でよかったのですが、この後に猛威を振るったBlasterというワームの対策でセキュリティ対策ツールとなったり、個人情報保護法の施行に合わせてファイルの操作記録を取るためのツールになったり、最近は働き方改革からコロナ禍におけるテレワークのためにPC起動時間の記録を就業管理と連携させたりと、PCに関わることなら何でもござれと言わんばかりに、時代に合わせて変遷を続ける謎のツールとなっているような気がします。

 日本のIT資産管理ツールとMDM(Mobile Device Management)、EMM(Enterprise Mobility Management)は何が違うんだ? と聞かれると、グローバルではツールとしての位置付けが全く違い、日本では「同じものと考えて結構です」というのが私の感覚です。せいぜい「スマホが扱えるか、どうか」の違いというところでしょう。

 今は、多くのソフトウェアの提供形態がサブスクリプションに移行しつつあります。クラウドでライセンス認証され、使い続ける間は継続的に課金されます。「買い切る」ということがなければ、当然ながら「資産」という概念もありません。ソフトウェアの資産管理ツールは、早晩意味を失うでしょう。なにより、PCに「エージェント(クライアント)」と呼ばれるソフトウェアをインストールして、サーバーで管理するIT資産管理ツールにおいて、当初考えられていたような在庫管理としては、あまり意味をなしません。PCがセットアップされて、電源が入っていないと管理できないからです。そのため、結局在庫としてのPCは今でもExcel表で管理しているという企業が少なくありません。

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