本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、日本オラクル 執行役社長の三澤智光氏と、SAPジャパン バイスプレジデント ゼネラルビジネス統括本部 事業統括本部長の藤井善豪氏の発言を紹介する。
「提案や説明が行き届かず、お客さまに無駄なコストを発生させてしまうのは、私たちのフォルト(過ち)だ」
(日本オラクル 執行役社長の三澤智光氏)
日本オラクル 執行役社長の三澤智光氏
日本オラクルの執行役社長に12月1日で就任した三澤氏が先頃、同社の事業戦略についてオンラインで記者会見を開いた。冒頭の発言はその会見の質疑応答で、クラウド事業の競合状況について聞いた筆者の質問に答えたものである。会見の内容は関連記事をご覧いただきたい。
冒頭の発言における三澤氏の意図を筆者は、「オラクル製品が他社のクラウドインフラ上で利用された際、オンプレミスでのパフォーマンスとそう変わらず、移行にかけた時間とコストが無駄になったという経験をお客さまにさせてしまったとしたら、それは当社からの提案や説明がお客さまに届かなかったという意味で、私たちのフォルト(過ち)だと受け止めている」と解釈した。
この発言を取り上げたのは、同氏の強い使命感が表れていると感じたからだ。
Oracle Databeseをはじめとした同社の製品群は、社会基盤や企業の基幹業務などミッションクリティカルなシステムに数多く採用されている。それらが他社クラウド上で利用されるケースも少なくないが、同氏が言うようにそれが「効果を上げていない」のも「私たち自身がしっかりとOracle Cloudのことを提案し説明していないからだ」と。4年前まで日本オラクルに21年間在籍し副社長まで務めた同氏ならではの感覚だろう。
順番が前後したが、筆者が会見の質疑応答で聞いたのは、「クラウドベンダーとしてAmazon Web Services(AWS)やMicrosoftなどのサービスと真っ向から対抗するのか」といった競合状況についてだ。ちなみに、Oracle CloudはIaaS(Infrastructure as a Service)&PaaS(Platform as a Service)領域の「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」とSaaS(Software as a Service)領域の「Oracle Cloud Applications(OCA)」からなる。
これに対し、三澤氏はまず、「Oracle Cloudの最大の差別化ポイントは、お客さまのミッションクリティカルな業務に、IaaS、PaaS、SaaSの全ての階層で高いパフォーマンスと信頼性、一貫性を提供できることだ」と強調した。
そして、「クラウドに対してお客さまも選ぶ目をお持ちになったり、マルチクラウドで利用するなど多様な形になる中で、Oracle Cloudの特長を理解していただける機会が増えてきたと捉えている。むしろ、これからは私たちがどう提案し説明していくかが肝心だ」と、自らに言い聞かせるように語った。
実は、筆者のこの質問には伏線がある。米Oracle創業者で会長のLarry Ellison氏が先頃の決算発表時に出した声明で、「世界に分散した地域データセンター数がAWSを上回った」と、これまでと同様にAWSへの対抗意識をむき出しにしたこともあり、三澤氏も競合状況に水を向ければ刺激的な発言が飛び出すのでは、と考えたのだ。
結果、筆者の思惑は外れたが、一方で先述したように同氏ならではの強い使命感を聞くことができた。
三澤氏は会見の冒頭で、日本オラクルとして新たに設定したビジョンを図1のように示した。キーワードは「TRUSTED」、すなわち「信頼」だ。先述した質疑応答でのやりとりも、このビジョンを物語っていると筆者は感じた。
図1:新たに設定したビジョン(出典:日本オラクル)
(編集部より:初出時に三澤氏のコメントに『過失』とありましたが、正しくは『フォルト(過ち)』です。訂正いたします。)