1912年(大正元年)に「ゐのくち式渦巻ポンプ」を製作する大学発ベンチャー企業として創業した荏原製作所(大田区、単体従業員数4047人)。現在ではポンプ、コンプレッサー、冷凍機などの風水力事業、廃棄物焼却プラントやバイオマス発電所などの環境プラント事業、ドライ真空ポンプ、めっき装置などの精密、電子事業を柱とし、売上高は5237億円に達する。
荏原製作所 執行役 情報通信統括部長 小和瀬氏
そんな荏原製作所がさらなる成長を目指し、推進しているのがデジタルトランスフォーメーション(DX)である。同社 執行役 情報通信統括部長の小和瀬浩之氏は、「データとデジタル技術を駆使し、製品やサービス、ビジネスモデルをグローバルに変革する『攻めのDX』と、それを支えるERPやタレントマネジメントシステムなどの情報インフラを整備する『守りのDX』を両面から展開しています」と、その基本方針を語る。
2019年からリモートワークの環境整備を開始
同社は現在、日本のほか北米、欧州、アジア、中東など、世界中に100の関係会社を構えている。連結従業員数1万7480人の働き方改革を見据え、リモートワークの環境整備にも取り組む。メールシステムを「Gmail」、基幹システムを「SAP S/4HANA」へ移行するほか、間接材購買管理サービス 「SAP Ariba」、人材管理の「SAP SuccessFactors」、経費精算の「SAP Concur」などのSaaSを次々に導入している。
「社内のクローズドなネットワークから脱却したクラウドへの転換を進めています。背景にあるのは、どこにいてもオフィスと同等に働けるようにするという狙いです」(小和瀬氏)
荏原製作所 情報通信統括部 ITアーキテクト部長 千葉氏
この取り組みに弾みがついたのが2019年のこと。同社 情報通信統括部 ITアーキテクト部長の千葉一機氏は、「もともと2020年に開催される予定だった東京五輪に向けて政府からリモートワーク実施への呼びかけがあり、弊社もこれに応じるべく概念実証(PoC)を開始しました」と語る。
もっとも、その後の社会がどうなったかは周知のとおりだ。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて2020年4月に1回目の緊急事態宣言が発令され、同社も予定を大幅に前倒ししてリモートワークを実施しなければならなくなった。しかもその対象となるのは、ほぼすべての従業員である。「当初の計画では最大400人程度のリモートワークしか想定していなかったため、大幅な軌道修正を迫られました」と千葉氏は振り返る。
想定の10倍以上に急増したリモートアクセスに対応
だが、多少の混乱はあったものの、同社は迅速にこの変更に対応することができた。ゼロトラスト型のリモートアクセス環境として、アカマイ・テクノロジーズ(アカマイ、中央区)のクラウド型ID認識型プロキシ「Enterprise Application Access (EAA)」を採用していたことが奏功したのだ。
「月単位のユニークユーザー数によるライセンス体系で柔軟に拡大できるEAAのメリットを生かし、この仕組みを急遽国内外の拠点で働く約8500人の従業員に開放することにしました。結果としてリモートアクセス件数は想定の10倍以上に急増しましたが、軽快で安定した稼働状況により、業務を継続することができました」(千葉氏)
荏原製作所 経営企画部 IR・広報課 徳永氏
同社 経営企画部 IR・広報課の徳永薫氏は、「社内イントラへスムーズにアクセスできたので、実務のすべてが家で可能となったことが大きい」と使用感を説明する。
「ペーパーレスや印鑑レスなどに取り組んでいたことも含めて大幅にスピードを上げることができました」(徳永氏)