(2)データの収集は「手軽さ」と「楽しさ」を実現する
健康経営におけるタレントマネジメントシステムでは、鮮度の高い人材情報のアップデートが重要となる。そのためにはデータ収集のあり方が最も肝心だが、何か複雑な仕組みが必要なわけではない。むしろその逆で、従業員にとって「手軽」で「楽しい」ものであることが必要だとお伝えしたい。
「手軽さ」という観点で言えば、従業員に各種人事申請を出させるのと同様に、しっかり情報を記入、提出させるという様式から抜けられないようでは、従業員も情報提供のモチベーションは落ちてしまう。従業員がメールに添付されたExcelに、自身の回答を指定の宛先に送り返すのと、チャットボットなどを活用してスマホからチャットでそのまま回答するのでは、どちらが手軽かは言うまでもないだろう。
「楽しさ」について見てみよう。コンシューマー向けアプリによくあるゲーミフィケーションを、企業システムに取り入れることがトレンドのひとつでもある。無機質に回答を迫られ、回答後も定期的にただ同じ情報を入力するだけという、これまでのやり方は、従業員目線で見ると、持続的な貢献意識を損ないがちだ。ゲーム感覚を取り入れ、回答実績に応じてポイントを付与したり、貢献度の可視化などで達成感を与えたり、または回答した後に自身に関するレポートが報告されるといったフィードバックがあれば、情報提供に前向きになりやすいかもしれない。
その結果、従業員が自身の状態を客観視し、自分の働き方や気持ちのメンテナンスをするきっかけにつながれば、健康経営を考える上でも大きなポイントである。「経営層や人事が従業員の情報を管理し、全ての従業員をケアする」という志は悪くないが、あまり現実的ではない。
(3)疲弊せず運用できるシステムの構築
システム構築をして安心し、力が抜けてしまう組織が少なくない。このような組織では、タレントマネジメントシステムはデータをストックする仕組みとして終わりがちだ。本来的には、システム構築の完了はスタートラインに過ぎず、少なくとも健康経営的な要素を考えるのであれば、データの収集、分析まで実行できる運用体制を整備する必要がある。
しかし「タレントマネジメントシステムは人事システムなので、人事部がデータの収集から分析まで総合的に運用すべき」と安易に判断してしまうと、なかなかうまく行かないようだ。
”システムを乱立させない”ためにもシステム選定や運用設計の旗振り、データの収集までを人事部の役割とすることには賛同できるが、データ分析の運用については別の視点で考えてほしい。
人事部は、人材採用、人事考課、勤怠管理、給与計算、各種申請に伴う事務手続きなど、既に100%の工数をかけて業務を行っている。これらの業務が劇的に減少する、あるいは人事部員を増員しない限り、既存の人事部職員に対してタレントマネジメントの分析業務を課すのは難しい。
また、現実問題として、上記のような一連の業務とデータの集計、分析では必要な能力やスキルも大きく異なる。よって、「タレントマネジメント=人事」と安易に整理することは危険なのだ。
この状態を打破するには、「データの分析、管理の現場化」がある程度必要になる。つまり、現場の管理者が日常のマネジメントプロセスの一環としてデータを分析、管理できるようにするのだ。タレントマネジメントの目的を、従業員の健康やエンゲージメントといった働く上での基礎的事項のモニタリングと、最適な対応策の迅速な実施に置くのであれば、やはり人事が全てを見るよりも、現場に近いところでグリップする方が効果的であり、かつ持続的なマネジメントサイクルが期待できる。
4.まとめ
リモートワークは今後の働き方を考える際に、大きな論点の一つであり、大きな効果も見込まれるものである。しかし、その分、従業員の心身の健康に思わぬ影響を与える可能性があることも分かってきた。もちろんそのような状況は誰も望んでいない。
色々な手法があるが、健康経営においても重要なのはファクトである。タレントマネジメントシステムを伝統的な人事管理の仕組みとして捉えるのではなく、従業員の新鮮な情報をしっかりと把握、分析するプラットフォームにしていけるようにブラッシュアップすることをお勧めしたい。
次回は、フルリモート/フルフレックスという働き方を念頭に置きながら、リモートワークを最大限生かしつつ、長時間労働を是正するための枠組みや対応策を考察していく。
(第4回は6月中旬にて掲載予定)
- 長谷川 健祐(はせがわ けんすけ)
- クニエ ヒューマンキャピタルマネジメント担当
コンサルタント - 大手ERPベンダーにて主にシステム導入プロジェクトに従事。新部門の立ち上げにて、社内SNSやチャット、クラウドストレージ、スケジューラーといったコミュニケーション領域に特化したシステムのデータ分析を行うサービス開発を経験。クニエではシステム面での支援に加え、人事制度の策定や勉強会講師など総合的な支援を行う。