健康経営をタレントマネジメントへ統合する流れ--情報の鮮度を保つ勘所を考える

長谷川健祐 (クニエ)

2021-06-03 06:45

 第3回では、リモートワークによって広がった、新しい長時間労働の原因である、いわゆる「IT意識高い系人材」の暴走について紹介した。今回は、リモートワーク下の長時間労働への対応など、今再び注目される「健康経営」を、人材情報を一元管理する「タレントマネジマントシステム」を活用して推進する方法のヒントを紹介していく。

1.リモートワーク時代に注目される健康経営

 長時間労働は、いわゆる「働き方改革」という言葉が出てくる前から恒常的に問題になっていた。しかし、リモートワークが広まる中で、問題の質が確実に変わっている。

 対面のコミュニケーションが取れないリモートワークの状態だからこそ、長時間労働になりがちなことは、第2回、第3回でもお伝えした通りだ。少し大胆に言えば、リモートワークは、気を付けないと従業員の健康を損なうメカニズムを内包しているとも言える。企業としては、これまでとは異なる従業員のケアが必要になる。

 そのような背景がある中、一つの流れとして健康経営が改めて注目されている。

 これまで健康経営というと、CSR(企業の社会的責任)の文脈で語られることが多かった。しかし、リモートワークの広がりとともに、従業員のパフォーマンスマネジメントを適切に行い、また従業員のメンタル不調などの望まない結果を避けるために取り組むべき、不可欠な要素として認識されつつある。

 健康経営の実行性を上げるためには、その基礎として従業員のメンタルとフィジカルの両面での健康管理、仕事ぶりに関する情報の取得、マネジメントへのタイムリーな活用が必要である。そして、当然ながらリモートワークが広がっている環境下では、その実現にITの活用が不可欠となる。

2.健康経営を支える基盤としてのタレントマネジメントシステム

 人事の世界では、これまでタレントマネジメントという呼び方で従業員の情報を管理してきた。しかし、そこで扱っていた情報は、従業員の属性や評価情報など、重要ではあるものの、従業員の健康状態を把握し対応するためには、お世辞にも鮮度が良いとは言えないような情報が主であった。

 普段の生活と同じ場所で就業、勤務状況や表情などが確認できないリモートワーク下で健康経営を志向するためには、従業員の状態に関する鮮度の高い情報の取得、管理、分析が課題になる。そのような観点で考えると、タレントマネジメントは、もはや“伝統的な人材管理”のためのシステムとしてのみ捉えるべきものではない。現場の状況のタイムリーな把握と対策の実施を通じて、従業員の健康やエンゲージメントを管理するための基盤としての再構築が必要になる。

3.既存のタレントマネジメントシステムを見直す論点

 既存のタレントマネジメントシステムを健康経営で活用するには、そもそものシステムの使い方から考え直すような論点もあり、それほど容易なことではない。ここでは、特に注目してほしい3つの論点を取り上げる。

(1)システムを乱立させない

 タレントマネジメントシステムはSaaSとして提供するものが多く、比較的低コストかつ簡易に導入できるものが多い。そのため、気軽に「とりあえず導入してみる」「まずはいろいろと試してみる」などしやすい。

 しかし、手軽さゆえに、人事部、情報システム部、はたまた各事業部門が、各々好きなシステムをばらばらに導入し、社内に似たようなシステムが複数存在するようなケースが増えている。そうなると、各部門が別々のシステムを使うことで壁が生じ、結果、部門間ではメールに添付したExcelファイルでの情報共有などが行われることになる。この状態ではシステムの利活用からは程遠い。

 また、実際の利用者である現場のマネージャーに複数システムを利用させると、各システムの利用方法に関する教育やシステム利用の動線など、ユーザビリティの低さが影響し利用率を低下させてしまうことは想像に難くない。第3回で紹介したように、ITツールやシステムの乱立は長時間労働をさらに加速させるようなリスクにもなり得る。

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