自動車業界は激動期にある。その中で日産自動車は、2020年に打ち出した事業構造改革計画「NISSAN NEXT」の下、自動運転や電動化(以下、EV)など先進技術を積極的に投入する戦略を敷いている。それを支えるのが車載ソフトウェアであり、そのために利用するシステムでのユーザー要件は複雑だ。そこで日産は、ArasのPLM(製品ライフサイクル管理)プラットフォーム「Aras Innovator」を導入し、PLMシステムを構築した。
Arasが4月20~22日にオンラインで開催した年次イベント「ACE 2021」では、日産でグローバルISデリバリー本部 エンジニアリング&デザインシステム部 課長代理職を務める根本博明氏、パワートレイン・EV技術開発本部 パワートレイン・EV制御技術開発部 EMS制御技術開発グループ ソフトウェアエキスパートの小林秀明氏が、Arasを採用した背景、活用、将来の展望を語った。
1台の自動車のソースコードはWindowsより多い
日産は、2023年を目標とする「NISSAN NEXT」において、先進運転支援となる同社の自動運転技術「プロパイロット」を搭載する車両を150万台投入する。電動化では2023年度までに年間100万台以上の電動化技術搭載車の販売を目指している。
先進技術の商品性を支えているのが車載ソフトウェアだ。根本氏は、「1台の自動車のソースコードは1億行を超えている。これはWindows、Androidあるいは戦闘機のF35よりも多い」と語る。このように重要性の高いソフトウェアの管理でAras Innovatorを採用した。
根本氏のグローバルIS部門は、日産の製造、生産、販売に関わる全ての事業部門が利用するITに責任を持つ。そこで2012年に車載ソフトウェア開発のためのPLMシステムを開発するワーキンググループが発足した。根本氏は当時を振り返り、「ソフトウェア開発部門の要件が難しい上、業界の変化とともに業務要件が次々に変わる」と難しさを表現する。ユーザーが多く要件定義での合意が難しい。連携ツールが多いという悩みもあったと根本氏は明かす。
さまざまなPLM製品を比較検討し、Arasを採用することにした。決め手は、「作りやすい」「握りやすい」「つなぎやすい」という3つの特徴だという。Arasは、プラットフォームとモデリングエンジンを土台に、要件管理などの各種アプリケーションがあり、コネクターを使ってCADなどに接続したり外部システムとデータをやりとりしたりができる。
「作りやすい」という特徴では、モデリングエンジンにより設計データを視覚的に分かりやすいモデルデザインにして開発できる点を挙げる。また、「握りやすい」とは、製品仕様などの合意形成が容易にできることという。これもモデルを使うことで、それぞれのユーザーが考えているイメージや仕様について認識が視覚的にも共通化されるため、合意形成までの具体的なコミュニケーションがとりやすくなるからだ。「IT部門が勘違いをしていた場合もモデルを使ってユーザーとやりとりすることで勘違いを早期に発見でき、最終的な品質のレベルを上げることができる」(根本氏)
同社はこのようにして、2014年にArasを採用したプロセスとデータを統合管理する日産PLMを完成させた。「Javaのフルスクラッチで作ったレガシーシステム、某ベンダーのソースコード管理ツール、ユーザー側で作り込んだマトリックス系のExcel台帳」などがあったと根本氏。役割ごとにシステムや管理台帳が存在し、設計情報が共有されていなかったが、複数の管理システムにまたがる多重管理の状況を解消し、情報の一元管理を実現したという。
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