IBMは、5月にオンラインで開催した年次イベントの「IBM Think 2021」で、ハイブリッドクラウドとAI(人工知能)を中心とする戦略を改めて表明した。同イベントを踏まえて日本IBM 専務執行役員 テクノロジー事業本部長の伊藤昇氏が、この戦略の進展状況やIBM Think 2021で発表された主要な新製品・サービスなどを紹介した。
日本IBM 専務執行役員 テクノロジー事業本部長の伊藤昇氏
ハイブリッドクラウドとAIの中心に据える戦略は、会長兼CEO(最高経営責任者)のArvind Krishna氏が2020年の就任時から掲げているものになる。伊藤氏は、ここ数年でパブリッククラウドが社会に浸透する一方、企業では道半ばにあり、同社としてはハイブリッドクラウドのアプローチで顧客を支援しているとした。
また、AIはここ数年の間に企業の業務プロセスに組み込まれるようになり、業務改善、生産性向上、デジタルトランスフォーメーション(DX)といった観点で、その取り組みが加速している。IBMとしても「Watson」に代表されるAIのテクノロジーを長らく顧客に提供しており、現在では自動化や業種別ソリューションなどのアプローチに進化させているとする。
ハイブリッド&AI戦略でのソリューション構成
伊藤氏は、ハイブリッドクラウドとAIを総合した同社の取り組みを「IBMソフトウェア」「IBMクラウド」「IBMシステムズ」「エコシステムパートナー」に分類して見せた。それぞれの方向性は、IBMソフトウェアでは自動化、予測、モダナイズ、セキュリティを切り口に、Red Hat OpenShiftやCloud Pakなどのオープン性を志向する製品でハイブリッドITインフラに柔軟にコンピューティングリソースを展開できるようにする。
IBMクラウドでは、伊藤氏はサービス自体の提供規模などが競合に及ばないものの着実な成長を遂げているとし、特に金融や通信など固有の業界要件のある分野に応じたサービス提供に注力するとした。IBMシステムズでは、System Zなど世界中で長く運用されているミッションクリティカルシステムにクラウドライクな柔軟性や俊敏性を取り入れていくとする。エコシステムパートナーは、ソフトウェア、クラウド、システムズでの取り組みを加速させる観点から、サードパーティーとの連携強化および買収を推進していると説明した。
伊藤氏によると、IBM Think 2021には世界から約3万5000人が参加し、日本からも1000人近くが参加したという。オンラインという実施形態からその様子を体感するのは難しいが、リアルで開催されてきたコロナ禍以前の規模をオンラインでも実現しているようだ。
イベント中とその前後では多数の新製品やサービスなどが発表されたが、この中から伊藤氏は「Watson Orchestrate」「Cloud Pak for Watson AIOps」「WebSphere Automation」「Cloud Pak for Data次期バージョン(V4)」「信頼できるAI」「IBM Cloud Code Engine」「Tailored Fit Pricing IBM Z Hardware」「IBM Spectrum Fusion」を取り上げた。概要は以下の通りとなる。
- Watson Orchestrate:コミュニケーションツールと連動し、ユーザーの対話内容を自然言語処理で分析、ユーザーの業務にまつわるコンテキストを抽出して関連する「スキル(自動化処理の機能)を組み合わせて、業務プロセスを自動的に実行する。β版を提供中で、Cloud Pakのコンポーネントとして近々に一般提供される
- Cloud Pak for Watson AIOps:ITインフラの運用管理をAIで自動化する。監視データをリアルタイムに分析してプロアクティブな障害対応や予防保全などを実現し、一元的なサードパーティーツール連携を図る。買収するInstana(パフォーマンス管理)とTurbonomic(リソース管理)も近日統合予定
- WebSphere Automation:企業内で分散利用されているWebSphereシステム群の統合運用管理を実現する
- Cloud Pak for Data次期バージョン:6月中にバージョン4として提供を開始。仮想データ統合、データカタログの自動作成、データに対するポリシー管理とガバナンスの確保、AIモデル開発4つを新機能として追加する
- 信頼できるAI:上記のCloud Pak for Data次期バージョンの新機能により、AIの透明性や説明可能性といったAIの信頼を高める
- IBM Cloud Code Engine:Knativeを利用するIBM Cloudにおけるサーバーレスコンピューティングのサービス。アプリケーションの迅速なデプロイメントや従量課金が特徴
- Tailored Fit Pricing IBM Z Hardware:顧客が保有するIBM Zのキャパシティーを基準として、15分ごとのリソース消費に応じて課金する新たなモデル
- IBM Spectrum Fusion:Red Hat OpenShiftを搭載したハイパーコンバージドインフラストラクチャー(HCI)製品。オプションの高速分散処理のストレージと高速のGPUによる高速処理が可能で、エッジサーバーとしても使用可能。2021年後半に発売予定。2022年にはソフトウェアのみでも提供し、IBM以外のハードウェアとの組み合わせも可能になる見込みとなっている
IBM Think 2021で発表した戦略にひもづく製品やサービス
最後に伊藤氏は、顧客企業におけるDXなどの取り組みが進む中で、アジャイルライクなプロジェクトの実行など従来と変化が生じており、顧客と伴走しながらの共創モデルでテクノロジーを提供していく体制を強化するとも説明した。