アメリカン・エキスプレス・インターナショナル(Amex)は9月17日、国内の法人間取引(BtoB)キャッシュレス決済市場をつまびらかにする記者説明会を開催した。2025年には40%(2020年の1.3倍)まで拡大すると見られるキャッシュレス決済市場に対して同社は、世界中で1億ドル(約110億円)以上を投資する中小事業者支援などを中心に施策強化を図り、存在感の向上を目指す。
間接的な経費削減効果が見えにくい
個人向け(BtoC)市場では一般的となりつつあるキャッシュレス決済だが、BtoB市場に目を向けると話は異なる。
キャッシュレス推進協議会の「キャッシュレスロードマップ2021」(PDF)や経済産業省の「キャッシュレス決済の中小店舗へのさらに普及促進に向けた環境整備検討会」(2021年8月27日資料=PDF)によれば、2008年時点で11.9%だった決済比率は、2020年時点でも29.7%と変移速度は遅い。また、海外と比較しても韓国の94.7%、カナダの62%と比べて日本は24.2%にとどまる(2018年時点)。
エコノミスト 崔真淑氏
このような状況に至った理由として、エコノミスト 崔真淑(さい・ますみ)氏は「銀行システムが進化しすぎたのか。答えは否。たんす預金増や平均年齢の高齢化、ATM(現金自動預け払い支払機)サービスの充実に加え、米国と比べて5分の1程度にとどまるICT投資額が要因」と指摘する。
BtoB市場でキャッシュレス決済が用いられない理由についても、崔氏は「政策がBtoCに偏っていた。(企業がBtoB決済に踏み切らないのは)ビジネスの現場で間接的な経費削減効果が見えにくい」と分析した。
経済産業省の「キャッシュレス決済実態調査」によれば、中小事業者のキャッシュレス決済導入状況は72%(有効回答数1189)と順調に見えるものの、事業のBtoC比率で切り分けると1~20%未満は41.9%、顧客がBtoBのみの企業は12.5%まで低下する。
これらの調査結果に対して崔氏は、「事業規模が大きければ大きいほど、新しい仕組みを導入する社内調整コスト(が足かせとなり)、顧客需要(としてキャッシュレス決済)がない」と2つの理由を指し示した。つまるところBtoB市場におけるキャッシュレス決済が広まらないのは、「商慣習が影響している」(崔氏)からだ。
米国や英国、ドイツ、オーストラリアはクレジットカード決済が主な支払い手段として用いられるが、国内は「銀行振り込みや約束手形が発達」(崔氏)し、「キャッシュフロー(現金収支の流れ)経営においてデメリットが存在すると研究者の間でも指摘されている」(崔氏)。さらに紙の約束手形は2026年に廃止される予定だ。
崔氏は「キャッシュフロー改善の後回しは現金回収の遅れにつながる」と指摘。材料などを仕入れてから現金を回収するまでの早さを示す、資金運用の効率指標である「Cach Conversion Cycle(CCC)」は投資家からの評価に大きく影響すると提言した。
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