日本マイクロソフトは、12月14日からビジネスへの人工知能(AI)活用やAI人材育成などをテーマにしたオンラインイベント「Azure AI Days 2021 Winter」を開催。これに合わせて記者説明会を開き、「この20年間で技術が働き方や暮らしを変え、変化の速度が増しており、データをもとに推論を導くAIがさらに加速させる。AI技術の進化で今後全ての企業が『AI企業』になっていく」(業務執行役員 Azureビジネス本部長の上原正太郎氏)と予見した。
日本マイクロソフト 業務執行役員 Azureビジネス本部長の上原正太郎氏
マイクロソフトは現在、自社のAI戦略や取り組みを指して広義のAIを意味する「Microsoft AI」と、Microsoft Azureなどを通じたAIサービスを包括する「Azure AI」という呼称を用いる。また、研究機関の「Microsoft Research」で長年研究が続けられ、同社によれば、4000件以上の特許を取得し、2万2000以上の論文を発表。Azureビジネス本部 プロダクトマーケティングマネージャーの小田健太郎氏は、「30年間蓄積したアルゴリズムやモデルの精度を向上させ、製品やサービスに反映させている。Microsoftが持つフィードバックループであり、強み」と紹介する。
日本マイクロソフト Azureビジネス本部 プロダクトマーケティングマネージャーの小田健太郎氏
Microsoft Researchの研究成果をもとに、同社では各製品やサービスをAIで強化してきた。膨大なデータから機械学習でモデル化するAIモデルは、大元のデータの選別やアルゴリズムによって偏りが発生しがちだが、上原氏は「AIのブラックボックス化という懸念には、6つの原則で信頼できるアプローチを採用している」と話す。
具体的には、「信頼性と安全性」「プライバシーとセキュリティ」「公平性」「包括性」「透明性」「アカウンタビリティー(説明責任)」の6項目に集約される。この方向性を決定するのが、「AETHER(AI & Ethics in Engineering and Research:AIと倫理およびエンジニアリングと研究における効果)」だ。2017年に発足し、AIの課題を提言して、Microsoft AIの方向性を指し示している。上原氏によれば、AETHERの委員会で承認されなければAI機能を開発してもサービス化できないという。
AIモデル開発に必要なデータについては、「Azure AIではMicrosoft製品の至るところで動作している」(小田氏)といい、「Microsoft Teams」なら「Microsoft Cognitive Services」での「Speech to Text」を使ったオンライン会議の書き起こしで200万時間を超えるデータがあり、PowerPointでスライドデザインを自動生成する「デザインアイデア」が作り出したスライドのデータは10億枚を超えるという。「これらのデータからMicrosoft Researchのデータサイエンティストチームがモデルをトレーニングし、AI機能に活用している」(同)とのことだ。
Azure AIの概要
Azure AIは、機械学習モデルを構築する「Azure Machine Learning」を基盤に、言語や視覚など認知能力をAIで実現する「Azure Cognitive Services」、マイクロソフト製品やウェブなどにAI機能を組み込む「Azure Applied AI Services」の3種に大別される。Azure Cognitive Servicesの1つとして新たに「Azure OpenAI Service」を加えた。マイクロソフトは、2019年にOpenAIと戦略的協業を結び、2021年11月に開催した「Ignite 2021」で、自然言語処理モデル基盤「GPT-3」を組み込んだAzure OpenAI Serviceを発表している。
GPT-3は、OpenAIが管理するApplication Programming Interface(API)でも利用できるが、Microsoftのマネージドサービスとして使用する利点としては、短時間でプロトタイプを構築し、事業規模に応じて拡張できる点になるという。現時点では招待制で、GPT-3自身の学習データの大半は英文となり、すぐビジネスに活用できる段階ではないものの、今後注目したいAIサービスの1つになる。
Microsoftが公開したAzure OpenAI Serviceのデモンストレーション動画。スポーツ中継の発言を要約し、ブログ記事の文章などを生成する
日本マイクロソフトと国内企業のAI活用の取り組みも進む。ローソンは、店舗内に設置したカメラやマイクで収集するデータから個人を特定しない形で売場の通過人数や来客者の滞留時間、棚の接触時間、商品の購入率などを可視化。POSの売り上げデータなどと組み合わせて分析し、店舗運営のAI化を目指す。データ収集や分析基盤にMicrosoft Azureを利用する。
ソニーセミコンダクタソリューションズは、マイクロソフトと2020年5月から協業する。その一環として、日本を含む世界4カ所に「共同イノベーションラボ」を設立。AI処理機能を備えるソニーセミコンダクタソリューションズのビジョンセンサー「IMX500」とAzure Cognitive Servicesのトレーニングや技術検証を行っている。
12月6日時点でこの取り組みにアバナード、SBテクノロジー、EBILAB、日本システムウエア、日本ビジネスシステムズが参加。EBILABは小売業向け棚監視ソリューションを開発して実証実験を開始させた。画像解析を通じて棚の商品状況を監視し、補充が必要な場合はMicrosoft Teams経由でウェアラブルデバイスを装着した従業員にメッセージを送信するという。
共同イノベーションラボに参画するEBILABの取り組み