ServiceNowは、「Now Platform」の最新版「Tokyo」をリリースし、従業員体験(EX)やESG(環境・社会・ガバナンス)などの企業価値向上のための機能群を大幅に拡充した。10月20日に開催した年次イベント「ServiceNow World Forum Tokyo」に登壇した最高技術責任者(CTO) DevOps担当 エグゼクティブバイスプレジデントのPat Casey氏に、Tokyoリリースのポイントや日本における同社の展開を聞いた。
CTO DevOps担当 エグゼクティブバイスプレジデント Pat Casey氏
--改めて「Now Platform Tokyo」の注目ポイントをお聞かせください。
Tokyoリリースには3つの大きなテーマがあります。1つ目はユーザーインターフェース(UI)の改善。これは、ユーザーにとって使い勝手の良さや生産性向上につなげるために行いました。2つ目は、人工知能(AI)に役立つ新しい機能を追加しました。これは、従来やっていたAI活用の継続で、システムの中で繰り返し起きるものについては自動化していきます。3つ目は、プラットフォームの中でセキュリティや暗号化を強化していることです。特に規則が厳しい環境の中で仕事をする人のためにセキュリティなどの強化を行いました。
--EXや情報セキュリティの強化などの機能をアップデートしました。これらは企業にどのような効果をもたらすのでしょうか?
まず、EXについては、前回リリースした「San Diego」でUIを大幅に改善し、Tokyoでもその流れを継続しています。テーマに沿ってデスティネーションUIのパラメーターなどの変更も加えたことで、結果として、インシデントの解消を支援する「Service Operations Workspace」や、人事管理ソフトウェア「HR Service Delivery」(HRSD)に改善が加わりました。この一連の目的は、従業員が生産性を上げると同時に、UIの見た目を魅力的にすることで視覚的に心地良く仕事ができるように設計しました。
セキュリティの面で中核を担うのは「ServiceNow Vault」です。機能としては、データベース(DB)全体を暗号化できたり、特定のカラムを選んで暗号化したりして秘匿性を高めます。また、データを秘匿化することで、例えば人事に対して従業員から上司に関するクレームがあった場合、報告する際に匿名にできる機能も備わっています。
--Casey氏にとって心地良いUIとはどのようなものでしょうか?
主観的な意見になりますが、やはり西洋と日本で良いとされているUIは異なります。西洋ではある程度、情報量を少なくしますが、日本ではできる限りの情報を詰め込む傾向があると感じています。しかし、多少の違いがあるにしてもUIの近代化に伴い、例えば多種多様なフォントを用意したり、さまざまなシステムの中でも余白やレイアウトなどを考慮したりします。また、今回は画像やグラフィックを埋め込むことで、パワフルな表現ができるようにしました。UIについては、自分と自分の子供の世代間でも善し悪しが異なると思うので、できるだけ見た目が良い形になるように整えたつもりです。
また、TokyoのUIで大きく変化したのはテーマエンジンです。企業が複数のテーマを持ち、社内で使うUIに反映できる形になっています。従業員はテーマを選択し、働く上で使いやすく見やすいフォントや色、スペース、間隔などを任意にデザインできるようになっています。一人一人の好みに合わせたUIに対応できるようになったのは、Tokyoリリースの中でも大きな変化だと感じています。
-- TokyoリリースではほかにもESG Managementや法務部門向けのソリューションにも注力しています。これらのソリューションは企業にどのような効果をもたらすとお考えでしょうか?
どの企業からもESGは注目されています。二酸化炭素(CO2)の排出量がどれくらいかを可視化するのはもちろん、われわれのソリューションでは、実際にワークフローやプロセスを管理して可視化し、今より良い状態にするにはどうしたら良いのかを解決する支援をします。
「Legal Investigations」などの法務部門向けソリューションでは、組織内の法務部門の支援を行います。法務部門は、企業のさまざまな部署から法務に関係する依頼があります。例えば、契約のレビューや新しい契約の作成、合意書を作りたいなどです。法務の担当者が従業員からの依頼を受け、それらを文書化や記録をした上で結果を返すという流れを助ける仕組みになっています。
--Now Platformに関して、最近はユーザーからどのような機能のリクエストがありますか?
さまざまなフィードバックを受ける中で、UIに関するリクエストが多くありました。そのため、UIの改善は優先的に行っていますし、Tokyoリリースでも継続して行っています。新しいUIはアップグレードした時に必ずそのまま提供されるわけではなく、ユーザーが許可することで反映されます。現在では顧客の3分の1が許可しており、1年後には半数が許可をしているのではないかと期待しています。
ほかには、さまざまなシステムとの連携を容易にして欲しいという要望があります。これについては、ほかのリリースでも継続的に投資しており、「Integration Hub」として提供をしています。また、AIを適用する範囲を増やして欲しいという要望もあります。多くの顧客が複雑なワークフローを扱う中で、AIでカバーできる部分は可能な限りAIでやりたい、ということです。
セキュリティ機能に関する要望も多く挙げられます。それに応える形でServiceNow Vaultを提供しています。コンプライアンスが重要視されているため、暗号化やデータプライバシーが求められているのだと感じています。
--地域や業種によって求められる機能にはどのような違いがありますか?
世界的に見ると、重点的に使われるアプリケーションやプラットフォームなどが地域ごとで違う傾向があります。例えば日本の場合は製造業が多いことから、製造に該当するソリューションを多く活用しています。また、日本の特徴としては、日本でローカルに開発することのエキスパートや人材がそろう国なので、個別の注文に合ったものを開発する機能を使う傾向にあると感じています。
日本以外で見ると、欧州よりも米国の企業の方がカスタマーサービス製品を使うことが多い傾向にありますし、欧州ではドイツを中心に製造が多いので、製造業向けのソリューションを使うことが多いと感じます。
残念なことに、EXをそこまで重要視せず、後回しで良いと考えている国や地域が少なくありません。欧州では景気後退を強く感じているため、コスト削減や業務効率の向上に注目が集まっています。一方で、米国は欧州と比較すると景気後退の感じ方や受け止め方は柔軟であるため、コストや効率に対する偏りは多く感じません。特にインドは、世界が景気後退している中でも堅調な成長が続いています。COVID-19のパンデミック以前からの顧客の期待は継続していると思います。
--今後さらに力を入れて開発する機能やソリューションは何でしょうか?
私自身、AIの可能性には大きな期待を寄せており、現段階では自動化という世界の表面をかすめただけの状態だと感じています。AI導入のジャーニー(旅路)は始まったばかりなので、AIを活用したソリューションへの投資は今後も続けていきたいと思っています。また、UIも終わりのない改善だと思うので、継続的に取り組んでいきます。
プラットフォームに関しては、全体を標準化し、より多くのものに対応できるようにしたいと考えています。やはり、Now Platformに入れるデータや扱うトランザクション数が膨らんでいます。可能な限り時間と労力を割き、顧客が必要としているものよりも良いものを提供できる状態でありたいと思います。
--最高経営責任者(CEO)Bill McDermott氏の経営となって3年目になりますが、製品戦略や開発戦略など変化はありますか?
彼になって直接的に大きく変わったことはありません。Billは、顧客や一般に向けてService Nowについてしっかり訴求できる部分が強みだと思います。そのため、ビジネス戦略でもそのような分野を担当していますが、日々のプロダクトには直接的に干渉するというより、より大きな立場で役割を果たしているように感じています。
当社は最近、プラットフォームに加えてコロナ禍のデジタル化も包括的に支援しており、コロナワクチンの供給・接種・接種後のモニタリングの課題を解決するソリューション「ServiceNow Vaccine Administration Management」(VAM)の提供を行っています。これは、Billや私の上司でプロダクト戦略を担当しているCJ Desai氏が「パンデミックが起きているのに自分たちはただ座ってなにもしないわけにはいかない」という思いから、アプリケーションの開発に取り組みました。
--最後に、Now Platformの今後の展開についてお聞かせください。
UIの改善を継続的に行うと同時に、「Workspaces」に関連するソリューションを増やしていきたいと思います。特にUIで投資したいのは、アクセシビリティーの向上です。例えば、視覚障害者や色覚が弱い人でも製品を扱えるようにする責任や義務がわれわれにはあると考えています。
また、AIの領域では2つのことに注力します。まず、AIを活用してチケットなどを自動解決することは継続して行います。2つ目は、新たな技術でドキュメントインテリジェンスを構築したいと考えています。従来は光学文字認識(OCR)でやっていたことですが、その進化版を活用してスキャンしたものをデジタル化し、取り込めるように自動化します。
日本向けの話をするのであれば、製造業に関するアプリケーションに投資をしたいです。企業向けの資産管理は提供していますが、世界で展開しているトヨタやフォードなどの製造業向けに制御・運用技術(OT)のシステムを提供していきたいと考えています。