NECとNTTコミュニケーションズ(NTT Com)は、製造プラント内で作業員に異常が発生した際、迅速に検知・救出することを目指し、3Dマップとスマートグラスを活用して作業員の位置を測位する実証実験を実施した。両社が8月3日に発表した。同実証は、JFEエンジニアリング(JFEE)の協力のもと、同社の運営する実証用プラント「5G Innovation Plant」で行った。
製造プラントは広大な屋内空間に多くの設備・機器が設置されており、入り組んだ構造をしているため、人の正確な位置測位が難しい。屋内での人の位置測位において一般的に用いられる技術として、Bluetooth Low Energyビーコンからの信号の判別による位置推定技術があるが、金属やコンクリート壁といった障害物が多い環境では、他の電波の反射や干渉によって測位の精度が低くなるという課題がある。また、測位のために等間隔でビーコンアンテナを必要数設置し、作業者が受信機を携帯する必要もある。
こうした製造プラントの環境下でも作業員の位置を正確に測位し、異常が発生した際などに迅速な対応を可能にするソリューションを構築するため、両社は同実証を実施した。製造プラント内の作業員が装着したスマートグラスから目線映像を取得し、事前に作成した3Dマップと照合することで、作業員の位置を測位した。
実証ではまず、スマートフォンで事前にプラント内を撮影し、映像データを用いて自己の位置や姿勢の推定と環境地図作成を同時に行う技術「Visual SLAM」(VSLAM)で3Dマップを構築する(図1)。このプロセスは、初回のみ行う必要がある。次に、プラント内の作業員がスマートグラスを装着し、グラスで目線映像を記録。そして、記録した目線映像から特徴点を捉え、事前に撮影したプラント内の画像から作成した3Dマップと照合することで、全地球測位システム(GPS)やビーコンを使わずに位置を測位する(図2)。
図1:事前に作成したプラント内の地図と移動軌跡
図2:スマートグラスで撮影した映像から特徴点を捉える様子
同実証では、NECが環境を構築し、VSLAMを活用した映像による位置測位技術を提供。NTT Comが統制を担い、スマートグラスと遠隔作業支援ソリューション「AceReal Assist」を提供した。
実証では、スマートグラスを装着した作業員が歩行速度などを意識して巡回したところ、歩行開始から終了まで正確に位置を測位できた。今後、歩行速度に関係なく正確に位置を測位できるよう、照合精度の向上に向けたチューニングなどを検証する。
また、カメラ目線映像をサーバーに保存し、オフライン環境で3Dマップと照合して測位精度を確認した。今後は、3Dマップへカメラ目線映像を直接伝送・照合する仕組みを作ることで、リアルタイムに作業員の位置を把握できるようにする。
両社は同実証で明らかになった課題を検証し、2023年度末頃の商用化を目指すとともに、製造プラントにおける安心・安全な環境づくりに向けた事業共創を検討するとしている。