業務ソフトウェアベンダーが、自らの製品・サービスとジェネレーティブAI(以下、生成AI)を連携させる動きが活発化している。もはや、この連携は「マスト」だろう。ならば、その先の競争優位のポイントは何なのか。最近取材した中で、生成AIとの連携を図った業務ソフトウェアベンダーのキーパーソンの発言に注目し、「一歩先」を探ってみたい。
SalesforceやBoxのトップは何を語ったか
まずは、Salesforce 会長 兼 CEO(最高経営責任者)のMarc Benioff(マーク・ベニオフ)氏と、同社 日本法人セールスフォース・ジャパン 代表取締役会長 兼 社長の小出伸一氏の発言から。
Salesforceは9月12日(米国時間)にサンフランシスコで開催したプライベートイベント「Dreamforce 2023」において、生成AIとの連携をはじめとしたAI機能の強化を前面に押し出した。全てのSalesforceアプリケーションで利用可能な生成AI搭載の新しい対話型アシスタント「Einstein Copilot」や、新たなAI活用プラットフォーム「Einstein 1 Platform」などを発表。その中で、Benioff氏が新サービスの発表に向けて発信したメッセージを以下に紹介しておこう。
「全ての企業が今、生産性を向上させ、効率性を高め、顧客と従業員に素晴らしい体験を提供するために、AIによる変革を迫られている。Einstein CopilotとData Cloudによって、私たちは強力なAIアシスタントを簡単に作成し、信頼性のあるAIをあらゆる仕事、企業、業界における業務の流れに組み込むことができる。この新しい世界では、誰もがEinsteinになれるのだ」
「誰もがアインシュタインになれる」とは、自らのAIサービス名称への思いも乗せたBenioff氏らしい一歩先を見据えた発言である(図1)。
図1:「Einstein 1 Platform」の概要(出典:「Dreamforce 2023 Virtual Press Conference」説明資料)
セールスフォース・ジャパンの小出氏によると、「Salesforceは創業以来、CRM(顧客関係管理システム)を提供してきたが、生成AIはそのCRMの在り方も変え、企業と顧客の接点に革命をもたらすと考えている。当社のAIの歴史は、最近始まったわけではなく、CRM向けAIとして『Einstein』を開発して2016年に提供開始し、今日まで改善を重ねてきた」とのことだ。
同氏は、さらに次のように述べている。
「生成AIは、企業に新たなイノベーションをもたらすものだ。生産性をはじめ、ビジネスモデル、顧客体験、ツールとスキル、製品戦略などを新しい形に変革する力を持っている。より高い生産性を実現し、今日のビジネス環境に対するレジリエンスを高めていくためにも、企業は今こそAIを中心にした経営戦略を考える必要がある」
小出氏の発言で注目した一歩先のキーワードは、「AIを中心にした経営戦略」である(関連記事)。
次に、Box 共同創業者 兼 CEOのAaron Levie(アーロン・レヴィ)氏の発言から。
Boxは5月にOpenAIが開発した「ChatGPT」のAPIをコンテンツクラウドであるBoxに統合したAI機能「Box AI」を発表した。Levie氏はその後、日本法人のBox Japanが開いた記者説明会で「これまで当社が世の中に送り出してきた技術の中でも最も重要で大変革をもたらすものだ。この最新AIのケイパビリティーをBoxの機能として最も安全な形でお客さまに提供していく」と述べた。
そのケイパビリティーについて、同氏は「全ての従業員を1000倍のスピードで働くさまざまな分野の専門家やアシスタントがサポートしている未来を想像してみてほしい。これがまさしくAIの力だ」と説明。「これによって、文書や画像、プレゼンテーション資料などを作成するなどの個人の生産性向上はさることながら、スピーディーな製品化やカスタマーサポート、パーソナライズドマーケティング、ビジネスのリスク軽減といった会社や組織としての生産性も上がる」と説明した。
Levie氏の発言で注目した一歩先のキーワードは、「生産性の向上」である(図2)(関連記事)。
図2:「Box AI」のケイパビリティー(出典:Box Japanの会見資料)