大阪市とアマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSジャパン)は9月1日、「生成AIの利活用にかかる連携協力に関する協定」を締結した。AWSジャパンが生成AIの活用に関して協定締結という形で連携するのは、政令指定都市を含む自治体・行政機関として大阪市が初めてだという。
左から大阪市 デジタル統括室 室長 鶴見一裕氏、大阪市長 横山英幸氏、AWSジャパン 執行役員 パブリックセクター 統括本部長 宇佐見潮氏、AWSジャパン パブリックセクター 官公庁事業本部 自治体営業部 部長 山口徹氏
大阪市では、データやデジタル技術の活用を前提に、サービス利用者の目線で、まちや地域、サービス、行政のあり方を再デザインし、社会環境の変化に対応していくことで、同市での生活や経済活動を行う多様な人々がそれぞれの幸せ(Well-being)を実感できる都市への成長・発展を目指してDXの取り組みを進めている。
今回の協定は、注目を集める生成AIについて、同市における市民サービスの向上と業務効率化に向けた活用の可能性および利用に当たっての課題解決方法に関する共同検証を目的にしている。
生成AIの活用に向けた共同検証は、9月から11月下旬にかけて同市向けに構築した検証用環境において実施する。利用効果が見込まれる業務や場面での検証や、利用者が期待する回答を得るための各種手法を検討。また、生成AIの利用に当たっての注意点や課題も洗い出していくという。
AWSジャパンはこの検証において、大阪市の市民サービスの向上につながる新たな取り組みを支援する形で、同市と綿密に連携しさまざまな業務における生成AIの利用・活用についてアイデアを出していく。自治体は特にセンシティブな情報を取り扱うため、関連法規や業務ルールに抵触しないように、生成AIがいかに業務効率化に効果があるのかを検証していくとした。
検証の対象になる業務は、技術面や効果面に関わる助言をAWSジャパンから得た上で選定する。大阪市は現段階で、文書の要約や添削、案文の作成や各種資料を用いた調べ物の支援を検証の対象業務としている。他方、事務作業の効率化だけでなく創造性が必要な業務での活用も模索しているという。
デジタル統括室長 鶴見一裕氏
大阪市 デジタル統括室 室長の鶴見一裕氏は、「例えば市役所における広報業務では、住民にさまざまな『お知らせ』を出す。それは、コンパクトで分かりやすい内容であればあるほど良く、これまでキャッチフレーズなどは職員が知恵を出し合いながらやっていたが、生成AIを使うことでアイデア出しが楽になるのではないかと考えている。生成AIが出す成果がクオリティーの高い物であれば、効率性も考えた上で、そういったクリエイティブな領域に生成AIを使っていくこともできると思う」と、生成AIの活用に対する展望を述べた。
鶴見氏によると、共同検証は外部からアクセスできないように高いセキュリティが確保された大阪市独自の環境で行うという。また、入力したデータは生成AIの学習に利用されないことを前提にしており、職員が個人情報やその他の非公開情報を生成AIに入力しないようにガイドラインを設ける予定だ。
加えて、生成AIを本格利用する際には、誰がどのような入力をして、どのような回答を得たのかをログとして残し、問題が発生した時に検証できる体制を整えたいと鶴見氏は話す。「生成AIが最終判断を下すことはまだないが、中間プロセスで活用する可能性は十分にある。生成AIから出た誤った情報を使ってしまった場合に、責任の所在がどこにあるのか、説明責任を果たさなければならない」と説明した。
また同氏は今後の展開として、大阪市が保有している行政情報を生成AIとリンクし、より同市の業務やサービスに最適化した生成AIの利用を探りたいと話した。
同市における生成AIの活用に向けた今後の予定は、9月に検証用のガイドラインを策定し、検証業務担当者と希望者向けの生成AI研修を行うという。11月に終了する検証の結果を踏まえて試行利用に向けた方針を取りまとめた後、全庁を対象にした生成AIの試行利用を実施する。
試行利用の結果を踏まえ、2024年3月までに本格利用に向けた方針を取りまとめ、2024年度からの本格利用を目指すとしている。同時に、全職員に向けた生成AI研修を行い、庁内における機運醸成と職員のリテラシー向上に取り組むという。
生成AIの利用に関する今後の予定
同日に行われた締結式では大阪市長の横山英幸氏が登壇し、「生成AIはリスクや課題がある一方で、役所内の業務効率化のために積極的に活用を考えたいと検討を進めていたところ、AWSジャパンから共同検証の申し出をいただいた。今回の実証において好ましい成果が得られれば、今後の本格的な利用において業務効率化によって生まれた時間を市民と向き合う業務や政策課題の検討に充てることができ、住民サービスの拡大が実現できる」と協定に対する期待を述べた。
AWSジャパン 執行役員 パブリックセクター 統括本部長の宇佐見潮氏は、協定について「全国でトップクラスの人口と経済の規模を誇る大阪市の広い分野での市民サービスの向上や業務効率化に対して、AWSジャパンのサービスと知見が、大阪市の目指す行政DXに大きく貢献できると考えている。特に大阪市は人口規模が大きく、多様化する社会課題や社会ニーズに対応していくために今後の取組方針となる『大阪市DX戦略』を策定し、新しいテクノロジーである生成AIの行政における活用に積極的に取り組もうとしている。そういった意味で、当社と大阪市が連携することで、日本全国の行政に対する大きな成果を生み出せるのではないかと思っている」と説明した。