本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、AWSジャパン 技術統括本部 技術推進グループ 本部長の小林正人氏と、ガートナージャパン ディスティングイッシュトバイスプレジデント、アナリストの亦賀忠明氏の発言を紹介する。
「チャット形式の生成AIは、ユーザーニーズが高まれば提供する可能性は否定しない」
(AWSジャパン 技術統括本部 技術推進グループ 本部長の小林正人氏)
AWSジャパン 技術統括本部 技術推進グループ 本部長の小林正人氏
米Amazon Web Services(AWS)の日本法人アマゾンウェブサービスジャパン(AWSジャパン)は先頃、金融業界向け生成AIの活用方法に関する記者説明会を開いた。小林氏の冒頭の発言は会見の質疑応答で、「AWSではChatGPTのようなチャット形式の生成AIサービスは提供しないのか」と聞いた筆者の質問に答えたものである。
会見の内容は関連記事をご覧いただくとして、ここでは小林氏の冒頭の発言に注目したい。同氏は会見の中で、生成AIとAmazonの関係について次のように説明した。
「Amazonはこれまで20年以上にわたって機械学習によるイノベーションに取り組んできた。そうした中で、生成AIも、結果を一段と導きやすくした『検索機能』や、最小限の入力情報から多言語による応答を実現した『Alexaの教師モデル』、プログラマーが入力したプログラムの続きを予測して自動生成できる『Amazon CodeWhisperer』といったイノベーションを生み出してきた」(図1)
図1:生成AIとAmazonの関係(出典:AWSジャパンの会見資料)
一方、顧客の要望に応じて提供する生成AIサービスについては、基盤モデル(大規模言語モデル)と生成AIによってアプリケーションを容易に開発し展開することができる「Amazon Bedrock」、複数の基盤モデルにアクセスできる「Amazon SageMaker」、先に紹介した「Amazon CodeWhisperer」、そしてインフラストラクチャーとして「AWS Trainium」や「AWS Inferentia2」などを挙げた(図2)。
図2:AWSの生成AIサービス(出典:AWSジャパンの会見資料)
中でもAWSの生成AIの主力サービスとなるのが、Amazon Bedrockだ。小林氏は「Amazon Bedrockの特徴として特に挙げておきたいのは、インフラの管理が不要なことだ。お客さまは自身が使いたい基盤モデルや関連するさまざまなサービスを選択すれば、それを動かすインフラの管理は全てAWSに任せることができる」と強調した。
こうして見ると、AWSの生成AIサービスはこれまでの機械学習と同様、顧客企業が自社のシステムに生成AIを有効活用できるようにした「開発者向け」の色合いが濃い。一方で、生成AIと言えば、ここ数カ月にわたって話題沸騰なのが「ChatGPT」だ。これに対し、ハイパースケールのクラウドサービスベンダーとしてAWSの競合となるMicrosoftは担ぎ役となり、Googleは対抗サービスを打ち出している。AWSは果たしてどうするのか。誰もが感じている疑問だ。
そこで、今回の会見の質疑応答で、「AWSはChatGPTのような誰もが使えるチャット形式の生成AIサービスを出そうと思えばできるはずなのに、なぜ出さないのか」と、単刀直入に聞いてみた。すると、小林氏は次のように答えた。
「AWSのサービスは常にお客さまの声を反映する形で開発し、提供している。とりわけ、最近では生成AIをうまく活用したいという声を数多くお聞きしており、その中でも多いのが、アプリケーションを開発する上で基盤モデルを選べることやインフラの管理が不要といった要望だ。Amazon Bedrockはまさしくそうしたニーズに対応したものだ。ただ、現時点ではこうした取り組みに注力しているが、誰もが使えるチャット形式の生成AIサービスに対するお客さまのニーズが高まれば、今後提供する可能性は否定しない」
筆者の感触では正直に言って「やりそうだ」とは感じなかったが、小林氏が丁寧に答えてくれたので記しておきたい。生成AIの取り組みではMicrosoftやGoogleに先行されているとの見方もある中で、どう巻き返すか。AWSの攻勢に注目したい。