在日スイス大使館は、「2025年日本国際博覧会」(大阪・関西万博)へのパビリオン出展に向けて、2022年9月からコミュニケーションプログラム「『Vitality.Swiss』-ゆたかな未来って?」を展開している。スイス・パビリオンでは、「ヘルシーライフ」「持続可能な地球」「人間中心のイノベーション」を柱とした展示を予定しているという。
同大使館は11月、Vitality.Swissの一環として、AIと量子技術をテーマにプレスツアーを開催。本記事では、スイス連邦教育研究イノベーション庁(SERI)でイノベーション局長を務めるDaniel Egloff氏が語った、同国におけるイノベーションの源泉やAI・量子技術へのアプローチを取り上げる(Vitality.Swissシリーズの1本目)。
チューリヒにあるスイス連邦鉄道の駅前。歴史的な街並みをトラムが水槽の魚のように走る
少子高齢化など日本とも共通する課題を抱えているスイスだが、イノベーションの観点では他国をリードしている。同国は2023年度、欧州委員会(EC)による「欧州イノベーションスコアボード」、世界知的所有権機関(WIPO)による「グローバルイノベーションインデックス」でそれぞれ1位に輝き、ローザンヌに拠点を置くビジネススクール・国際経営開発研究所(IMD)による「世界競争力ランキング」でもデンマーク、アイルランドに続き3位となった。
こうした結果を構成する要素として、Egloff氏は「政府が提供する枠組み条件」などを挙げる。スイス政府は、学校教育と職業訓練を同時に行うドイツ発祥の教育システム「デュアルシステム」に力を注ぐ。同国では中学校卒業後、約3分の2が職業訓練学校に進学し、学校で座学を受けながら研修先の企業で有給の実習に取り組む。これにより、学生は一定のスキルを持った上で就職することが可能となる。
また、基礎研究に対する資金提供を積極的に行う一方、企業が研究開発(R&D)に取り組む際の資金は自力で調達してもらう形を採っている。「政府もそれに見合った資金を持っており、だからこそ官民連携は一定の役割を果たす」とEgloff氏は述べる。
ボトムアップのアプローチも良い影響をもたらしている。「われわれは研究機関に『受け取った資金をこの分野に使いなさい』などとは言わない。投資は大規模に行うが、使い道を決めるのは研究者自身だ。専門家である彼らは、何が世界規模で重要か、どこに注力すべきかを認識している」と同氏。
国際的な開放性も重要な要素である。「スイスは非常に小さな内陸国なので欧州の国々との協力が必要だが、欧州以外でも幾つかの国々と研究やイノベーションに関して覚書や協定を締結しており、日本とも協力関係にある」(Egloff氏)
研究/高等教育機関と民間部門は、情報、能力・専門知識、研究開発(R&D)の結果といった知識や技術を共有する(図1)。政府は仲介役としてイノベーション促進機関「Innosuisse」による支援や官民連携の取り組みなどを行い、政治は双方における枠組み条件の改善に寄与している。この体制により、市場性のある製品やサービス、プロセスが生まれるという。
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