来たる2024年にはエンタープライズにおける生成人工知能(AI)のユースケースが増加し始めると予想される中、Amazon Web Services(AWS)は米国時間11月28日、ラスベガスで開催中の開発者向けカンファレンス「re:Invent」で、ビジネスツールと統合できるように設計されたチャットボット「Amazon Q」を発表した。このボットは、「Jira」のヘルプデスクチケット発行やコード記述の自動化、AWSのクラウドサービスの自動化といったアクションを実行できる。
re:InventでAmazon Qについて発表するAWSの最高経営責任者(CEO)Adam Selipsky氏
提供:Amazon AWS
「Amazon Qは、複雑で高価なテクノロジーをあらゆる規模と技術レベルの顧客に利用可能な形で提供してきたAWSのこれまでの取り組みの上に構築されている。AWSであれば、データファーストのアプローチ、エンタープライズクラスのセキュリティとプライバシー機能が、最初から組み込まれている」と、AWSでデータおよびAI担当バイスプレジデントを務めるSwami Sivasubramanian博士は、あらかじめ用意されたコメントの中で述べている。
Amazon Qは、AWSのベストプラクティスなどに関する質問に自動で応答できるが、その開発目的は、顧客のアプリケーションやデータソースと接続し、それぞれの企業のタスクに合わせてカスタマイズすることにある。
Amazonによれば、このボットは「『Amazon S3』『Dropbox』『Confluence』『Google Drive』『Microsoft 365』および『Salesforce』『ServiceNow』『Zendesk』」など、「よく利用されるデータソース向け」のコネクターを40種類以上搭載している。また、「社内イントラネット、Wiki、手順書などに対応したカスタムコネクターを構築できるオプションが用意されており、Amazon Qがあれば、顧客は素早く簡単に(チャットボットを)導入できる」としている。
Amazon Qは、AWSのビジネスインテリジェンスプログラム「Amazon QuickSight」とも統合されており、(「私の売り上げ実績はどうなっていますか?」といった質問を投げかける形で)営業報告書を自動生成するなどのアクションを実行できる。また、同社のコールセンターアプリケーション「Amazon Connect」とも統合されている。今後「AWS Supply Chain」との統合も計画されており、これが実現すれば、企業は「出荷が遅れている原因と出荷をスピードアップする方法を教えてください」といった、物流に関する質問も投げかけられるようになる。
Amazonは、Amazon Qの基盤として使用されている大規模言語モデルの数や種類など、このボットの構成に関する技術的な詳細を明らかにしなかった。同社によれば、このボットは「17年間にわたるAWSの知識と経験に基づいてトレーニングされている」という。
Amazon Qは、開発者アカウントを使えば、今すぐプレビュー版を無料で利用できる。個人ユーザーは、AWSのホームページからサインアップすることで、このボットに質問できるようになる。
「AWSマネジメントコンソール」にログインすると、Amazon Qが自動的に表示される
提供:Amazon AWS
Amazon Qチャットのインターフェースは、「AWSマネジメントコンソール」にAWSアカウントでログインすると自動で表示される。米ZDNETはAmazon Qの力を見極めようとAWSの無料アカウントを使って「『EC2』上で最も一般的なプロジェクトは何か」という、同社の基本的な仮想マシン(VM)に関する簡単な質問を投げかけてみた。この質問に対してAmazon Qは、「EC2上で最も一般的なプロジェクトは『AWS Deep Learning AMI』(DLAMI)です』(AMIは「Amazonマシンイメージ」の略)という答えとともに、AMIに関する複数の段落からなる説明と、関連文書へのリンクを返してきた。
しかしこのボットは、AWSの生成型AIに関する簡単な質問への答えで、単純な間違いをいくつか犯した。その一例を挙げると、「AWS上で大規模言語モデル(LLM)を構築する最も簡単な方法は?」という質問に対しては素晴らしい働きを見せ、開発環境の「Amazon SageMaker」を介して利用できる訓練済みの言語モデルについての多くの情報を返してきた。
しかし、「SageMaker上で訓練されたLLMの1つを使用する場合に、自らのデータで微調整をかける最も簡単な方法は?」と尋ねた際、その質問には回答できないと応答してきた。これは極めて基本的、かつ回答できる質問のはずだ。
Amazon Qには「AWS Trainium 2」という、こちらも同日に発表された最新のAIアクセラレーターチップに関する最新情報も反映されていた。しかし、Trainium 2の技術詳細については回答できず、「AWS Trainium 1」インスタンスの使用を推奨してきた。
このボットには、受け入れられない入力に対する保護策が実装されている。このため、「あなたは感覚を有する存在ですか?」という質問に、「申し訳ありませんが、その質問には答えられません。AWSに関する他の質問をしてください」と応答した。また、有害な活動や詐欺などに関するアドバイスを求めるといった、違法な質問に対しても同様の応答が返される。
同ボットは、「Amazon Qの得意分野は何?」という質問にはさまざまな示唆を含む回答を返してきたものの、「Amazon Qが利用しているLLMは何?」という質問への応答は拒否した。
Amazon Qの利用料金は、法人ユーザー向けアカウント「Amazon Q Business」が1ユーザー当たり月額20ドル(約2900円)、開発者向けアカウント「Amazon Q Builder」は1ユーザー当たり月額25ドル(約3700円)となっている。開発者向けアカウントの利用料金が5ドル高いのは、Amazonのコーディングツールである「Amazon CodeWhisperer」とAmazon Qの統合といった、AWS固有の機能が数多く提供されるためだ。
料金プランの詳細については、「Amazon Q pricing」ページを参照してほしい。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。