Notion AIのさまざまな活用事例を紹介
本稿は、現在大きな注目を浴びる「大規模言語モデル(Large Language Models:LLM)」を利用した「Notion AI」をいち早くSaaSに組み込み、また早い時期からユーザー企業のフィードバックを得てきたサービス提供側の立場から、生成AIの業務利用に関してお伝えしています。第2回目となる今回のテーマは、「生成AIの活用事例と導入効果」です。生成AIを活用することで日常業務にどのようなメリットがもたらされるのか、実際にNotion AIを導入した企業の例を紹介しますので、これから生成AIの導入を考えている企業、または導入後うまく活用できていない企業の参考になればと思います。
Notion AIの活用事例と導入効果を理解いただくために、Notion AIについてはじめに簡単に説明しておきます。Notion AIは、業務に欠かせないドキュメント、ナレッジ(Wiki)、プロジェクトを1箇所に実現できる“コネクティドワークスペース”であるNotion上で利用可能な生成AIです。
「Notion」上で作成している、または蓄積されているテキストやメモ、表、データベースなどに対して、ユーザーがメニューを選んだり、プロンプトを入力したりして指示を出すことで、自動的に文章の生成や翻訳、校正、アイデア出し、グラフ・表の作成などを行ってくれます。また、利用者が質問を投げかけるとNotion内の全ての情報を確認し、その参照元ページとともに回答してくれます。Notion上にある情報をすぐに利用でき、あなたが誰で、誰と一緒に仕事をしているのかというコンテクストを知った上で日常業務をサポートしてくれるのがNotion AIの大きな特徴です。
Notion AI導入で生産性が向上した事例
Notion AIの利用用途は企業ごとに異なるものの、大きく3つに分けることができます。「生産性の向上」「品質の向上」、そして「アイデア創出」です。1つずつ具体例を紹介していきましょう。
まず、「生産性の向上」に関しては、文字情報に関する作業をNotion AIに任せることで、作業時間を短縮して業務効率化に役立てるものです。具体的にいえば、文章を要約したり、議事録からアクションアイテムを抽出したり、顧客調査メモから重要ポイントを抜き出したりなど、従来は人が行っていた作業をNotion AIに行ってもらうことで生産性の向上を図ります。
例えば、グロービスでは「エンジニアがテストコードを書く時間が減り、実装時間が3分の1程度短縮した」「RSpecのテストコードをNotion上に転記してNotion AIでテストケースの形にまとめたところ、QAエンジニアのコードへの心理的障壁が大幅に軽減された」、またLegalOn Technologiesでは「採用活動でレジュメの要約を作成する時間が半減できた」「既存言語から『Mermaid』(作図用の技術言語)にして図を作成することで手間を削減できた」という効果がありました。
また、「生産性の向上」の面でもっとも分かりやすいのが、LayerXやNTTデータなどが導入効果として挙げる「議事録の作成」です。多くの企業では議事録を作成する際に、参加メンバーが会議中にメモを取り、打ち合わせ後に清書して参加者に共有するのが一般的でしょう。しかし、この方法では「記入漏れや内容のミスはないか」と会話に参加することが難しくなったり、会議後に時間が取れられたり、議事録作成者には大きな負担がかかります。
そこでNTTデータでは、会議中に音声文字起こしツールを使って会議のメモを作成。そしてそのメモをNotionに取り込んでNotion AIに要約させ、そこから自動的にネクストアクションを抽出した議事録を作成することで、従来課題だった議事録作成時のテキスト入力と編集の人的負担を解決し、同時に議事録をNotion上のデータベースに格納することで参加メンバーがいつでも好きなときに確認できる環境を整えることに成功しました。
「既存業務」と「ゼロイチ」を助ける生成AI
次に「品質の向上」に関しては、人が行うと手間や時間がかかっていた作業をNotion AIに任せることで、高いアウトプットを短時間で実現するものです。具体的には、文章の翻訳や校正、スペルの修正、内容の改善、語調やトーン、文章量、表現の変更などがあります。例えばNotion上でプレスリリースや提案資料を作成しているときにNotion AIを呼び出すと、「翻訳する」「文章を改善する」「スペルと文法を修正する」「短くする/長くする」「トーンの変更」「シンプルな表現に書き換える」といったメニューが表示され、より良い文章に素早く書き換えることができます。
実際の導入効果として、グロービスでは「グローバルメンバーが入るミーティングの前後に、アジェンダや議事録の翻訳が簡単に行えた」、NTTデータでは「重要なメールや文章作成時にセルフ/ダブルチェックしていたが、Notion AIでもチェックすることで精度高く、効率的に校正できるようになった」といったような例が挙げられます。
そして3つ目の「アイデアの創出」は、生成AIがゼロからアウトプットを生み出してくれるものです。具体的には、ブレインストーミングでのアイデア出し、長所・短所のリストのピックアップ、プレスリリースの作成、営業メールの作成などが当てはまります。
例えば、LayerXでは、ブレインストーミングやロールプレイ、メール応答内容の作成、主張の言語化などに活用しています。また、LegalOnでは「新機能を開発する際の新しい単語の検討」や「プログラムの関数や変数の命名」「定型文以外のメールの文章作成」「ヘルプページ作成時の文言の検討」などに用いるほか、特に「マーケティング部門では単に分かりやすい文章でなく、訴求力のある文書を作成することが大事なので、Notion AIの力を借りると自分では生み出すことができなかったキーワードが出てきてインスピレーションを得られた」ことをメリットに挙げます。生成AIが人間の「思考の幅」を広げてくれると言い換えてもいいでしょう。
このようにNotion AIの利用用途は「生産性の向上」「品質の向上」「アイデア創出」という3つに分けられますが、別の見方をすれば、生成AIの役割そして導入効果は「既存業務のサポート」と「ゼロイチのサポート」という観点から説明することもできます。つまり、従来人が行っていたタスクをサポートすること(生産性の向上と品質の向上)、そしてこれまで人が思いつかなかった/できなかったことをサポートすること(アイデア創出)の2つの側面から業務に変革をもたらしてくれるのです。
既存業務のサポート | ゼロイチのサポート | ||
---|---|---|---|
部門 | 生産性の向上 | 品質の向上 | アイデア創出 |
マーケティング | 和英の翻訳 |
イベント開催後の振り返りを踏まえた次回案の検討 |
アイデア出し |
開発 | 採用活動での応募者のレジュメの要約作成 |
障害調査などの表の操作 |
プログラムの関数や変数の命名 |
コーポレート | 議事録からのネクストアクションの生成 |
IT関連マニュアルの英語翻訳 |
定型文以外のメール文書作成 |
生産性向上を実感、体感できるテクノロジー
Notion AIは2023年2月にリリースされたため、ここで紹介した導入企業は長くても半年ほどしかまだ業務に利用していません。そのため活用方法はまだ模索段階ですが、ここで特筆すべきなのは導入から短期間でも、従業員がその効果を実感できていることです。「PM(プロジェクトマネージメント)業務が少なくとも半分以下に短縮できた」「テストコードの実装時間が3分の1になった」(グロービス)、「1作業において約30%以上の業務効率化があったと複数部門が回答した」(LegalOn)、「業務で時間を要していたテキスト入力と編集が『楽になった』と感じる人が増加した」(NTTデータ)といった導入企業からの声がその好例でしょう。
もちろん、業務内容によっても効果は変わってきますし、費用対効果の算出はまだこれからの段階ですが、「便利になった」「楽になった」という実感、そして「こんなこともできるのだ」という体感を日常業務にもたらしてくれることが、従来のテクノロジーによる生産性向上では成し遂げられなかった生成AI導入の大きな価値と言えるでしょう。
- ⻄ 勝清(にし・かつきよ)
- Notion Labs Japan ゼネラルマネージャー アジア太平洋地域担当
- 大学卒業後、シスコシステムズへ入社。セールス部門で多数の大手企業のグローバル展開プロジェクトに貢献、社長室戦略チームで事業企画や戦略策定を経験。
2012年 LinkedIn Japanに立ち上げメンバーとして入社。人事向け法人営業部門を統括。
2019年 WeWork Japanに入社。営業シニアディレクターとして戦略と組織を構築、事業拡大をけん引。オランダ・エラスムス大学ロッテルダム経営大学院 MBA。
2020年9月よりNotion日本1号社員として、営業・マーケティング活動を始め、ビジネスオペレーション全般を担当。ドキュメント管理、プロジェクトマネジメント、チームWikiをオールインワンで行え、かつ柔軟性の高いツールでチームがより高い生産性を実現することをサポートしている。