アバナード 代表取締役社長の鈴木淳一氏が就任したのは2022年9月。ビジネス成長のためのプランを立て、遂行していた鈴木氏だが、思わぬ方向転換を迫られることになった。2022年11月に「ChatGPT」が発表され、日本でも生成AIブームが起こったからである。
アバナードは、コンサルティングファームのAccentureとMicrosoftの出資で誕生した企業だ。MicrosoftがAIへのフォーカスを表明したことで、アバナードの顧客からもAIに関する相談が増えた。社長就任から約1年半、AI導入を模索する企業に鈴木氏はどうアドバイスしていくのか。同社のAI導入戦略について聞いた。
社長就任から2カ月後に想定外の生成AIが登場
アバナード 代表取締役社長の鈴木淳一氏
「生成AIの登場は本当に想定外だった」――ChatGPT登場に、多くの人がこう感想を漏らした。鈴木氏もその一人だが、その言葉には強い実感がある。社長就任から2カ月後にChatGPTが登場したことで、社長としての経営戦略を大きく方向転換することを余儀なくされたからだ。鈴木氏は苦笑しながら次のように話す。
「それまでわれわれがフォーカスしてきたERPなどの基幹システムの見直し、コロナ禍後のワークプレイスの見直し、セキュリティ対策といったものから、お客さまの関心が一気にAIに切り替わってしまった」
アバナードは、テクノロジーを活用したコンサルティング、システム構築を提供する企業だ。決してAIとは無縁だったわけではないが、それでもOpenAIが提供する生成AIは予想を超えていたという。
「もちろん、ChatGPTの登場以前からAI対応を支援する組織はあった。日本の組織の規模は小さかったが、グローバルには専門組織があり、決してAIに対応をしていなかったわけではない。しかし、ここまで急速にきちんと日本語に対応した生成AIが登場するとは完全に予想外だった」
そこで以前から進めてきた戦略に加え、AIへの対応を組み込んだ戦略を提供することとなった。
「Microsoftの全てのソリューションにAIが導入されることが発表され、われわれの組織もAIに向けて準備をしていかなければならない。大きく投資を行い、力を入れていくことが明確になった。本当に、これは十数年に一度の大きな変革のタイミングだと感じている。インターネットやスマートフォンと同様に、社会にも大きな影響を及ぼす変革が訪れた。そのタイミングで、私自身が社長という立場で経営方針を考えていくということは、ものすごくワクワクすることでもあった。振り返ると、社長に就任してからの1年間は、非常にエキサイティングな1年だったなと思う」
この言葉通り、アバナードでは、早いタイミングでAIを活用した事業を提供している。2023年11月14日に発表した、日清食品ホールディングスが導入した対話型チャットアプリ「NISSIN AI-chat」は、アバナードが開発を支援したものだ。NISSIN AI-chatは、日清食品グループの約4000ユーザーを対象に、「Microsoft Power Platform」と生成AI技術を使って独自に開発されたサービス。日清食品グループは、営業で想定される約30の業務にNISSIN AI-chatをはじめとする生成AIを全面的に活用し、営業担当者1人当たり年間400時間の労働時間の削減を見込んでいる。
同年11月1日に提供が始まった「Copilot for Microsoft 365」についても、同時に6つのサービスを行うことを発表している。アバナード自身が2023年2月に始まったCopilot for Microsoft 365に関する広範なテストに参加しており、従業員はツールを使用して、6週間以内に1日当たり最大2時間の節約を実現したという。