東芝は5月8日、半導体などの複雑なパターンを持つ製品の不良や欠陥の種類を高精度にグループ化する「教師なし画像分類AI」を開発したと発表した。独自の深層学習AIでベンチマーク画像に対する分類精度を従来の27.6%から83.0%へ大幅に向上させることに成功。製造現場の生産性を高め、品質改善に向けた分析プロセスを強化できるという。まずは東芝グループの半導体工場で導入を進め、早期の実用化につなげていくという。
東芝 研究開発センター 知能化システム研究所 アナリティクスAIラボラトリー フェローの中田康太氏
東芝 研究開発センター 知能化システム研究所 アナリティクスAIラボラトリー フェローの中田康太氏は、「背景の影響を受けることなく分類対象が含まれる目的の画像から不良や欠陥などの重要な特徴のみを識別できる。また、未知の欠陥を発見して早期に対処することで、生産性を向上できる。東芝自らが製造分野で長年の実績を持っているからこそ生まれた技術」と語った。
製造分野の検査では、検査画像を分類して不良や欠陥の発生状況を早期に把握することで、生産性を向上する高精度な画像分類AIへのニーズが高まっている。だが、分類する対象や判断基準を人手でAIに教示する「教師ありAI」では、高精度な分類が可能になるが、学習作業に関わるコストが高く、製造現場におけるAIの普及の障壁となっているのが現状だ。
一方で、AIが自ら対象の特徴を学ぶ「教師なしAI」は、容易に導入できるメリットがあり、人が想定していない画像の特徴も学習したり、製造方法の変更などで発生した予期せぬ不良や欠陥を分類したりするメリットがある。ただ、分類精度の向上が課題となっていた。
画像分類における「教師あり」と「教師なし」の違い(出典:東芝)
中田氏は、「製造分野の検査画像では、未知の欠陥が発生する場合があり、教師なしAIが有効だ。そこで、教師なしAIの精度を高める研究開発が進められているが、半導体回路のような複雑な背景を伴う場合には、AIの識別で背景につられてしまい、識別したい不良や欠陥の分類精度が低下するという課題があった。今回の技術は、独自の深層学習AIを用いて、背景パターンにつられることなく不良や欠陥を分類できる」とする。
同社が開発した教師なし画像分類AIは、「cIDFD」(contrastive IDFD)と呼び、同社独自の「IDFD」(Instance Discrimination and Feature Decorrelation)の改良版になるという。
cIDFDでは、深層学習AIを用いて、背景パターンに含まれる不要な特徴を学習する「背景特徴抽出ネットワーク」を新たに導入。さらに、不良や欠陥が含まれる目的画像の特徴を学習する「注目特徴抽出ネットワーク」と組み合わせることで、背景パターンの不要な特徴を無視し、目的画像から必要な特徴を効率的に抽出する。不良や欠陥を高精度に識別、分類することができる。「基本となる背景パターン画像をAIに与える必要はあるが、ほぼ作業はなくなる。人手で領域を指定する必要もない。背景画像と目的画像を厳密に連携させることなく判断する」(中田氏)
「cIDFD」の概要(出典:東芝)