近年リテールメディアが注目されており、それを契機にデジタルサイネージ広告も盛り上がりを見せている。しかし、デジタルサイネージ広告はユーザー/広告主の2つの視点で戦略的にマネタイズをしなければ、長くは生き残れない厳しい市場である。モビリティーにおけるメディア事業などを運営するニューステクノロジー 代表取締役の三浦純揮氏が、デジタルサイネージ広告におけるノウハウを伝える(全4回の最終回)。
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最適な広告メニューの考え方
デジタルサイネージ広告事業で利益を出すには、広告主から継続的に出稿してもらう必要があります。そのために、一番重要なのは広告メニューです。広告主のマーケティング戦略にマッチし、適切な広告料金のメニューがあることが、選ばれる広告になるための大事な条件です。
デジタルサイネージ広告の値付けは、広告のインプレッションとインプレッション単価をベースに算出しています。具体的に、タクシーサイネージ「GROWTH」を例にしてお話しします(図1)。
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GROWTHは、顧客がタクシーに乗車後、料金メーターと連動して広告放映を開始する仕組みなので、顧客が乗車した瞬間にインプレッションが発生します。GROWTHが設置されているタクシーの台数と平均乗車時間18分から全体のインプレッションを算出し、広告の在庫に応じて適切な広告メニューを設定します。
もちろん、デジタルサイネージ広告において「広告在庫が100%売れてトントン」では事業を継続できないので、事業運営にかかる費用、ハードウェアの減価償却、ソフトウェアの利用費といった毎月のコストを鑑みた上で、最終的には広告メニューの金額を算出します。
広告単価で言えば、タクシー広告は決して安いものではありませんが、できるだけ広告費を抑えたいと考えている広告主にも納得して出稿してもらうには、高い広告単価に見合う付加価値を提供すると同時に、それをしっかりと伝え、理解してもらわなくてはなりません。そのために必要なのが営業戦略です。
デジタルサイネージ広告のアウトバウンド営業戦略
デジタルサイネージ広告事業の立ち上げ初期は、とにかく多くの人にメディアの存在を知ってもらうことが必要です。GROWTHの立ち上げ直後は、アウトバウンド営業を積極的に行っていました。主にセミナーの開催や広報チームによるPR活動です。
最初の頃はメディア名を覚えてもらうために、GROWTHのロゴシールやオリジナルのミニカーなどをセミナーや営業の機会に配っていました。セミナーでは話題性を高めるため、代理店の方や企業のマーケティング担当者、媒体社の代表者の方など、業界のキーパーソンに登壇してもらいました。加えて、PR視点で話題化につながるコンテンツやIPとコラボレーション企画を行い、企画ごとにプレスリリースを発表することで、広告業界の関係者にGROWTHの存在を知ってもらうことを図っていました。多い時は、月に5本プレスリリースを発表したこともあります。
GROWTHは立ち上げ当初、「都内の企業に勤める決裁者層にリーチできる」というメリットを打ち出していました。その後、クライアントへのヒアリングを繰り返す中で「出稿後に指名検索のスコアが伸びた」という回答を頂いたことを契機に、営業先を対法人(BtoB)企業に絞って、このメリットを強くアピールしました。
「BtoBには第一想起が必要だ」をキャッチコピーにしたストーリーを作成し、「指名検索のスコアが増加する」という具体的なメリットを紹介することで、GROWTHの出稿価値を伝えました。
デジタルサイネージ広告のインバウンド営業戦略
インバウンド営業戦略において心がけていたのは、媒体情報を常に開示しておくことです。立ち上げ当初から一貫して、GROWTHの媒体資料はユーザーの情報を一切入力することなく、ウェブサイトからワンクリックでダウンロードできるようにしています。
媒体資料の提供に際してリード情報の入力を要求しないのは、私個人のポリシーです。自社商品の価値に自信があれば、焦って営業電話をかける必要はありません。広告主にとっても、ゆっくり検討したい段階で営業の電話がガンガンかかってくるのは、自社の都合を無視して商品を売りつけられているようで、あまり印象が良くありません。最初のコンタクト時の印象は、その後の出稿の判断にも大きく影響します。
また当社では、GROWTHの広告枠の空き枠状況も立ち上げ時から公開しており、広告主と広告代理店の誰もが、同じタイミングで、同じ情報にアクセスできるよう、空き枠表(アドカレンダー)をウェブサイトで閲覧できるようにしています(図2)。今では多くの会社が実施していますが、始めた当時は珍しかったと思います。
空き枠状況の公開を始めたのも、広告主が出稿を検討しやすい状況にするのが目的です。出稿に前向きな気持ちになっているのに、直接コンタクトを取らないと空き枠があるかどうかが分からない。こうしたひと手間を広告主にかけることに抵抗がありました。必要な情報は全て開示して検討できる状況を作っておく方が、市場環境の変化にもいち早く対応できると私は考えています。
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