本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、電子情報技術産業協会 会長の津賀一宏氏と、アクセンチュア マネジング・ディレクターの山根圭輔氏の「明言」を紹介する。
「AIを活用して従来のやり方をどう変えていくかというのが最も大事な視点だ」
(電子情報技術産業協会 会長の津賀一宏氏)
電子情報技術産業協会 会長の津賀一宏氏
電子情報技術産業協会(以下、JEITA)の新会長に6月3日付で就任した津賀一宏氏(パナソニック ホールディングス 取締役会長)は同日、記者会見を開いた。冒頭の発言はその会見で、日本企業のAI活用における留意点について述べたものである。
「社会のデジタル化と課題解決が急務となっている今、JEITAはデジタル産業を代表する団体として、社会の期待に応え、責任を果たす必要がある」
会見の冒頭でこう述べた津賀氏は、JEITAが現在注力している取り組みの1つである「テクノロジーの進化と社会の調和」について次のように話した。
「デジタルイノベーションは社会全体の利益となり、その恩恵を誰もが享受できることが望まれる。そのためには、継続的なデジタル投資が不可欠だ。デジタルの社会実装により成長力を高め、テクノロジーの進化が社会や暮らしの豊かさ、さらには日本の産業競争力につながるように事業環境の整備を推進していきたい」
「一方で、生成AIなどの急速な技術革新に対応した利活用のルール作りや、デジタルイノベーションと社会や法制度の調整も重要だ。JEITAは、デジタル技術が社会と調和するためのアクションを率先して進め、未来の社会や暮らしに貢献していきたい」
会見の質疑応答で、生成AIの利活用のルール作りにおけるJEITAの取り組み姿勢を問われた津賀氏は、次のように答えた。
「生成AIにさまざまなリスクがあることは周知の通りだ。従って利活用のルール作りを進める必要があるが、その前に生成AIに対する基本的な考え方を明確にしておくと、生成AIはこれからさまざまなイノベーションをけん引する画期的なテクノロジーだ。そのイノベーションをグローバルかつ人類全体に広げていかなければならない」
「従って、リスクに対するルール作りも国や地域ごとに進めるのではなく、グローバルな観点で世の中の流れを正しい方向に導いていく活動をしっかりと支援していく必要がある。そういう意味で、G7の広島サミットで合意された広島AIプロセスに基づいてOECDの場で国際的な議論が進んでいることを歓迎したい。JEITAとしては、国際調和のとれたAIの利活用ルールが実現することが望ましいと考えている」
また、日本企業がAIを活用する際の留意点について問われた同氏は、次のように答えた。
「日本企業はAIを活用することで、生産性の向上や従来のやり方を変えることができる領域が山のようにある。ただし、単に従来のやり方をAIに置き換えるのではなく、AIを活用して従来のやり方をどう変えていくのかということが最も大事な視点だと考えている。多くの日本企業はまだまだ古い組織文化や商慣習から抜け出すことに苦労している。AIを活用してそうした課題にどう対処していくか、どう変えていくのか。JEITAとしてもそうした日本企業の取り組みを支援していきたい」
冒頭の発言は、このコメントから抜粋したものである。一言でいえば、AIを活用して単なる「改善」ではなく、思い切った「改革」を断行せよ、と。パナソニック ホールディングスの改革をダイナミックに進めてきた津賀氏の言葉には、説得力を感じた。JEITA会長としての今後の発言に注目していきたい。
左から、JEITAの専務理事の長尾尚人氏、津賀氏、常務理事の平井淳生氏