前回の記事では、生成AI時代の企業間競争の中で、データを活用して競争優位性を強化する企業にとって、最高データ責任者(以下、CDO)の役割とその重要性について解説しました。
組織が生成AIやデータ駆動型の戦略を採用する中で、CDOの存在意義はますます重要性を増しています。しかし、その役割を効果的かつ最大限に果たす上で、CDOが直面している課題もあります。技術的な課題だけでなく、組織全体での従業員の理解を得ること、組織内での役割の定義、経営層の期待とのギャップなど、複数の側面からの対応が求められます。本稿では、CDOが組織において価値を最大化するために取り組むべき課題について解説します。
従業員の懸念に対する働きかけ
CDOがデータ中心のビジネスを導入し役割を全うする上で、第一の課題となるのは、従業員の懸念を払しょくすることです。組織の従業員は、AIによって自分の職が脅かされる、または自分が組織の中で価値を失うのではないかという不安を抱くことが懸念されています。そのため、CDOにとって従業員の理解を得ることは極めて重要であり、データ駆動型のビジネスやAIを組織に導入する際には、従業員の懸念と向き合い、時間をかけて信頼を構築する必要があります。
ハイドリック&ストラグルズが実施した調査では、従業員の意見が尊重される環境を構築した企業は、イノベーションやアジリティーを6倍、ビジネス成果を8倍達成しやすくなることが示されています。
また、IBMが実施した調査によると、日本においてCDOが取り組むべき課題の一つに、人材面で「データ活用人材と、それを支える人材の両軸で育成する」「自らデータを活用し、データを生産・提供するリテラシー、能力の向上を図る」ことが挙げられています。AIやデータが従業員にとっての脅威ではなく、それを活用・支援する人材の重要性、また、それに関するリテラシーに焦点を置くことで、従業員にとっての不安を払しょくすることにつながります。
CDOは、ビジネスにソリューションをもたらすために、AIやデータ活用によって従業員にとってどのような利点が生まれるのかを、従業員に理解してもらえるよう働きかけることで、従業員の価値だけでなくCDOの価値を生かすことができます。