インドに本拠地を置くHCL Technologiesの日本法人であるエイチシーエル・ジャパンは、2025年に設立27年を迎えた老舗のテクノロジー企業だ。現在の従業員数は約750人。その内約650人がエンジニアという「骨太」の構成で、日本企業における製品、サービスの開発サポートから、ソフトウェアの提供などを担う。
エイチシーエル・ジャパンを代表取締役社長として率いる中山雅之氏は、IBM Japanの執行役員、Tata Consultancy Services Japanの副社長、日本郵政の常務執行役 兼グループCIOなどを務めた人物。インド企業と日本企業の橋渡しをしながら、日本におけるHCL Technologiesのさらなる知名度の向上を目指す同氏に、日本市場の役割や今後の方向性などを聞いた。

エイチシーエル・ジャパン 代表取締役社長の中山雅之氏
HCL Technologiesが現在展開する主力ビジネスは、「デジタル」「エンジニアリングR&Dサービス」「AIおよびCloud」「HCLSoftware」の4つ。デジタル分野は2024年度の売上高が98億ドル(約15兆円)に上る稼ぎ頭で、ITオペレーションやデジタルコンサルティングなどを担う。HCLSoftwareはエンタープライズソフトウェアなどを請け負う。日本で最も強いビジネスが、エンジニアリングR&Dサービスで、日本企業が手掛ける製品やサービスの開発を支援する。

HCL Technologiesのサービス・製品ポートフォリオ
「日本におけるインドベンダーでNo.1になることがエイチシーエル・ジャパンのミッション。オフショア開発は文化や言葉の違いがハードルになることもあるが、そうした苦労をお客さまにかけずにスムーズにビジネスを遂行できるように、ローカライゼーションをしっかりと実施し、クオリティーを上げている。中でも日本は品質に対するこだわりが特に強い地域の1つ。いかに満足していただける品質を提供できるかに注力している」とクオリティーを第一に据える。
重要視しているのがインドと日本のスタッフによるハイブリッドチームの構築だ。「日本企業からの案件に対し、開発を支えるのはインドのメンバーになる。メンバー各自の能力を高めることも大事だが、それ以上に重要なのはハイブリッドチームをいかに作っていくか。この重要性については、社内はもちろん、お客さまにも伝えている」と説く。
このため人材採用や入社後のトレーニングといった人材強化にも熱心に取り組む。エンジニアは2~3年のスパンでプロジェクトをローテーションしており、常に刺激がある環境で開発に取り組めるとのこと。新たに入ったスタッフにはオリエンテーションはもちろん、トレーニングを実施し、スキルアップをサポートする。トレーニングは各言語対応や業種に応じた専門スキルの習得にまで及ぶ。
中山氏は「少子高齢化により日本の人材は枯渇してきている。私たちは、この日本においてデジタル人材を多く供給し、お客さまの開発に貢献している」と自信を見せる。
日本企業から請け負う開発は製造業が圧倒的に多いという。「今後は製造業にプラスする形で金融業に入っていきたいと考えている。その中にはクラウドやヘルプデスクなども含まれる。既に2024年には大手企業のお客さまからこれらの分野で引き合いをいただいた」と領域の拡大にも取り組む。
日本企業のインド進出を全面サポートするBOTとは
加えて、新たな動きとして打ち出すのがBOT(Build Operate Transfer)だ。これは、日本企業におけるインドへの進出をサポートするもの。「第1号ユーザーになったのはオリンパスで、戦略的パートナーシップを拡大し、インドのハイデラバードに専用センターを開設した際、HCL Technologiesがサポートをした。センターを設立し、運営を安定させた3~4年後には、全てをオリンパスに譲渡する契約を結んでいる。インドにIT子会社を持つ日本企業の数は、約90社と言われているが、これは今後も拡大すると見ている。しかし言葉や文化の違いにより、立ち上げが難しいケースもある。この部分をどうやって橋渡しするかが私たちの大きなテーマ。この課題を解決する1つの手法としてBOTを展開していきたい。これはほかのITベンダーがあまり取り組んでいない領域で、私たちならではのユニークな部分だと考えている」と新たな挑戦を続ける。
日本企業の数多くの開発サポートを担い、B2B事業において厚い信頼を獲得しているエイチシーエル・ジャパンだが、今後目指すのは「知名度の向上」だ。
「お付き合いのある日本企業の方はほとんどが私たちのことを知ってくださっているし、インドのベンダーである認知も広がっているが、例えば大手企業のシステム部門に携わっている人全員が知っているわけではない。今後は、日本における知名度を今以上に上げることで、よりビジネスにアプローチしやすい環境が作れると思っている。それが営業の基盤作りにもつながる」とさらなる成長を見据える。
(取材協力:エイチシーエル・ジャパン)