IBMでストレージソフトウェア分野を率いるCTOのChris Stakutisは、すべての企業が現在3つの大きな技術トレンドに直面していると述べている。3つのトレンドとは、データ量の驚異的な増加、無線接続の急速な普及、自己記述データを提供するXMLの台頭だ。
彼はこれらのトレンドがもたらす結果を表すキャッチフレーズを考え付いた。"Inescapable data"(避けて通るわけにはいかないデータ)だ。彼はこのトピックについて「Inescapable Data: Harnessing the Power of Convergence」という題名の本まで書いた。先週、この本の内容や、「どこにでもあるデータ」や「どこにでもあるワイヤレス」がビジネスに与える影響について、彼と話をした。Stakutisは、このような技術のコンバージェンスを実現させてビジネスのやり方を変えている業界をたくさん紹介してくれた。そういう分野の1つは農業だ。
「効率化を模索している大規模農場では、トラクターにGPSを取り付けて、畑の耕作作業を精密に追跡するようになっている。このトラクターは無人で走るので夜間作業を行うことも可能だ。そのため、耕作作業にかける時間を倍にすることができる」と彼は語る。「だが、これは単なる技術であって、"Inescapable data"がどうしたという次元の話とはまだ言えない」(Stakutis)
「ところで、同じJohn Deere社製のトラクターの製品ラインにはハーベスター(刈り取り機)がある。このハーベスターには穀物を収穫しながら収穫量を計測する機能が備わっているので、GPSを利用して、その農場では1平方メートルごとの収穫量を正確に把握できることになる。同時に、この機械は畑を耕しながら土の化学成分を分析して、1平方メートルあたりどれだけの肥料が必要かをきっちりと判断することもできる」とStakutisは説明する。
「一番すごいのは、これらのデータはすべてWi-Fiネットワーク経由で農場の運営センターに送られ、そこからさらに、このデータを先物取引所のフロアに転送できることだ。取引所の売買人は、これまではサイロに貯蔵されている穀物の量しか分からなかったが、こうしたシステムにより、リアルタイムで各農場の収穫量を把握することができるようになった」とStakutisは説明する。「これくらいのレベルの接続性を確保できなければ、競争社会で生き延びることはできない」とStakutis。
ほんの数年前までは、技術導入の費用が高かったため、こういうコンバージェンスはどれも不可能なことだったとStakutisは述べる。「今では、トラクターの製造会社が製品にWi-Fiチップを据え付けることくらい簡単にできるし、特別な工程を追加することなしに、大量生産によって価値を提供し、製品の市場浸透を推し進めることができる」(Stakutis)
「今までにない利便性や効率性を備えた製品がいずれ現れるだろう。今の段階ではそれらに余分なお金を払おうとは思わないかもしれないが、いずれにしてもこれらの製品は出現する。安く作ることができて価値を提供できるものなので必ず製品化される」とStakutisは語る。
コンバージェンスの力を利用するために企業は何をすべきかと尋ねたところ、Stakutisは、多くのタイプの企業にとって、動画データの増加に対処できるようにすることがますます重要になってくるだろうと答えた。動画データを活用できる業種の最有力候補は小売業だ。ほとんどの店舗には盗難防止のためにビデオカメラがすでに設置されているので、環境は整っている。「新しい世界で人々が求めるのは、消費者の購買行動に関するより正確な知識だ。カメラや動画処理にかかるコストが安価になって、消費者の購買行動を目で見ることが手軽にできるようになった」とStakutisは言う。このような初歩的な機能性を提供するベンダーの例として、彼はShopperTrakを挙げた。だが、1つ気になる質問がある。こういうプライバシー情報の扱いに顧客はどういう反応を示すだろうか。