2008年、スケールエコノミーからクールダウンエコノミーへ - (page 2)

飯田哲夫(電通国際情報サービス)

2008-01-01 08:00

スケールの追求からの転換

 ソフトウェアビジネスの領域は、過去数年に渡ってスケールエコノミーを追求してきたと言って良いだろう。オラクルやIBMなどの大手IT企業が次々と大型の買収を行い、製品開発でスケールエコノミーの実現を目指す。

 しかし、高度化し複雑化したソフトウェアをサービス指向に組み替えていく中で、単なるスケールの追求から再利用性の向上によるクールダウンへの転換が可能となる。つまり、開発効率の向上は収益性の観点に加え、社会的責任の観点を持つこととなる。

 一方、ITサービスの領域においては、インド系ITベンダーの成長が止まらない。最大手は社員数が10万人規模にまで拡大し、大規模オフショア開発のスケールエコノミーを追及する。しかし、ここに来てインド系ITベンダーはIPR(Intellectual Property Rights)に関する意識を高めつつある。

 単なるサービスベンダーから自らIPRを保持してソフトウェアを販売するソフトウェアベンダーへ転換することで、ビジネス効率を高めることを目指している。背景には人件費の高騰やスケールエコノミーの限界などもあるだろうが、こうしたサービス企業の動向は結果的にクールダウンの実現につながるだろう。

 日本のIT企業の間ではスケールを求める統合や海外展開が活発になりつつあるが、単なるスケールエコノミーでは、すでに海外のグローバル企業に対抗することは困難である。一定のスケールに加えて、いかにクールダウンエコノミーを付加できるかがポイントである。

サステナビリティ(Sustainablity)の2つの意味

 企業の競争優位性の条件は、それがサステナビリティ(持続性)を有していることだ。たとえばある新製品を開発して、一時的に競合他社を上回るパフォーマンスを上げたとしても、それがすぐに真似されてしまうのであれば、それを競争優位と呼ぶことはできない。

 つまり、優位性がサステナブルであって、初めて競争優位と呼ぶことができる。

 しかし、現在のビジネス環境において、サステナビリティにはもうひとつの意味がある。それは、その経済活動自体が地球環境を考慮しても持続可能である(サステナブル)かという観点だ。

 Googleがいかに競合他社に対してサステナブルな優位性を保持していたとしても、その経済活動が地球環境に打撃を与えている場合、それは社会に受入れられず、結果的にサステナブルとは言えない。

 Googleの環境関連の投資については、一部の投資家から収益に直結しないものであるとの批判があるというが、2つのサステナビリティを満たすことが企業存続の条件であるとすれば、その批判は的を射たたものとは言えないだろう。

スケールエコノミーからクールダウンエコノミーへ

 ITビジネスの領域はハードからソフトへとコモディティ化の流れに追い立てられ、コモディティ化した領域ではスケールエコノミーを追求せざるを得なかった。しかし、今後単なるスケールの拡大は競争優位の確保につながったとしても地球環境の観点からはサステナブルとは言えなくなる。

 そうした中で、スケールエコノミーをいかにしてクールダウンエコノミーへ転換させることができるかが重要となる。

 ハードの領域では、スケールを追求した上で、いかに消費電力を抑えていくのか、一方ソフトの領域では、いかにソフトウェア資産の再利用性を高めていくのか、これらを先に述べた2つのサステナビリティの観点から考えていく必要がある。

 2008年、ITのビジネスは、この2つのサステナビリティを実現するためにスケールエコノミーからクールダウンエコノミーへと舵を切るだろう。

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