実際に効果を上げているEnterprise 2.0の実例
次に同氏は、Enterprise 2.0を既に効果的に活用している企業例を示した。
「Second Life」で知られるLindenLabは、「The Love Machine」と呼ばれるツールを活用している。これは、社内の誰かがプロジェクトで成功を収めた、あるいは業務に貢献したといった評価を社員が「ハート」のメタファーを使って投票するというもの。各社員には、集めたハートの数によってインセンティブが与えられる。社員同士の肯定的なフィードバックがあることで、コラボレーションが進み、企業文化自体にも大きな変化を与えているという。
また、P&Gは、製品・部品のアイデアの35%を社外のクラウドソーシングを活用して発案しているという。カスタマーやパートナーを自社のビジネスに巻き込むことで、新商品開発を一緒に行っていく文化を醸成している。
米国の大手ゲームパブリッシャーであるElectronic Arts(EA)では、「予測市場(prediction market)」を活用している。予測市場は特に、集合知(群集の叡智:Wisdom of Crowds)を利用して、フォーキャストを作る上で注目されているツールだ。経営的な意思決定などを行う際に市場の反応を予測したい場合、企業単独で予測するよりも公平で適切な判断をするための意見が収集できるのだという。
そして、Pixar Animation Studioでは、会議の議事録などをWikiに載せ、関係者間の情報共有に活用している。同社にはWikiの文化が既に根付いており、映画の企画や制作にもナレッジ集約型の作業を取り入れているという。
導入の障壁となるさまざまな要因
では、Enterprise 2.0の導入には現在どんな課題があるのだろうか。
Newsum氏は、企業には6つのパワーの源があると指摘する。これは「役職・地位」「報酬」「強制力」「情報」「専門知識・能力」そして「人間」だ。これらは、企業を構成する個人に方向性を与えるものだが、一方で、組織を極めて政治的なものにもしている。「Enterprise 2.0の導入にあたっては、宿命的に従来の権限、組織構造を保っていた力関係を壊さなければならない」と同氏は言う。
また、Enterprise 2.0の展開には、相互理解を促すための共通の言語や定義が必要となるため、技術に対する理解不足や他のアプリケーションとの統合性なども問題になる。組織内部での無関心や理解不足、法的・財務的な障壁も存在するという。
さらに重要な観点として、組織内に存在する「大きな溝」を埋める作業が不可欠になるいう。つまり、マーケティングの世界でいう「キャズム理論」が指摘する問題だ。新たなテクノロジーの採用や組織の変革を行うにあたっては、新技術に熱意を持つ人々(新技術ファン)やそれを利用することに前向きな人々(未来志向者)と、良さは理解するが冒険はしたくない人々(実用主義者)との間に深い溝(キャズム)が生じる。さらに、現状を保ちたい人々(保守派)、信用しない人々(懐疑派)の反発にあうことで、導入が失敗に終わる可能性が高まる。
Newsum氏は、社内に存在する「実用主義者」をうまく説得することが、導入成功のカギになるとする。Enterprise 2.0が効果的で実用的であることを実用主義者たちが納得する形で証明できればよいが、これが大きな課題でもある。