2008年に入り、顧客や社員のためにオンラインコミュニティを作り上げることが、企業やテクノロジ業界から注目を集め始めている。あなたが企業人という立場にあるのか、IT業界に籍を置いているのか、共通の目標に向けて仮想世界でチームを築き上げようとしているのかにかかわらず、人々を組織し、協調性を高めて成果を出すための方法としてオンラインコミュニティの人気が高まってきているのだ。
コミュニティは社交的な目的のみではなく、何かを実現する目的でも存在し得るということが理解され始めてきているのである。
オープンソースの世界では10年近くも前から、複雑なソフトウェア製品の開発を円滑に進めるために、協調作業が可能な巨大なオンラインコミュニティを活用してきている。こういったコミュニティによって堅牢な製品が生み出されていることは、おそらく周知の事実だろう。ニューズグループやWiki(特にWikipedia)のような、古くからあるその他のコミュニティでも同様の成果が生み出されている。また、ソーシャルネットワーキングや、基本的にユーザーの後押しを受けているWeb 2.0アプリケーションが日常の一般的な行為として台頭してきたことも、2008年にオンラインコミュニティが注目を集めるようになった一因である。さらにソーシャルメディア、特にブログも、コミュニティベースのコミュニケーションと共同作業が持つ能力、およびその適用範囲の広さを気付かせることに一役買っている。
とは言うものの、ネットワークを基盤とするコミュニティが有意義なかたちで企業に浸透するには、テクノロジにおけるその他多くの進歩と同様に、相応の時間がかかることだろう。しかし、その実現は確実だというところまで来ていることに間違いはない。
私は最近の記事(「Twelve best practices for online customer communities」)でオンライン上の顧客コミュニティの実例をいくつか採り上げたが、さまざまな話を総合すると、多くの既存コミュニティが運営上の問題を抱えているのだ。例えば、持続的なコミュニティ管理が欠けていたり、コミュニティの場で「強引なマーケティング」が行われがちであったり、企業の動機とコンシューマーの動機が混同されるといった問題を挙げることができる。また最近では、コミュニティがテクノロジありきで始められるといった問題も出てきている。こういった問題が発生している一因として、オンラインコミュニティがまだ黎明期にあり、ネットワークにおける一応用事例という存在から日々の生活の中心へとシフトし始めたのが最近のことであるため、ほとんどの人にとって新たな規律が必要となっている点を挙げることができる。
ほとんどの人がコミュニティのファシリテーターとしてうまく立ち回れていないという事実は、われわれが今後効率的に作業を進めていくために、努力を積み重ねてこういった重要な能力を身に付けていかなければならないということを意味している。ネットワーク上で手を差し伸べ、関与し、他の人の協力を引き出す(こういったことは、しばしば「暗黙知の共有」(「Leveraging Web 2.0 for business growth」)と称される)ことができる人は、共同作業による方向性のある問題解決を成し遂げるうえでますます優位な立場に立つこととなるだろう。
また、職場におけるソーシャルソフトウェアの有効活用という観点から見た場合、コミュニティは特に重要なものとなるため、Enterprise 2.0(「The state of Enterprise 2.0」)が注目される要因ともなっている。これはコミュニティが基盤となり、その基盤上にネットワークに基づく共同作業を行う仮想のテントが設営されるためである。
効率的に機能するコミュニティを作り上げる方法は、プロジェクトの開始前にアドホックな小規模チームを編成し、運営しながらコミュニティを仕上げていくのか、長期間存続する何百万人単位の大規模な顧客コミュニティを作り上げるのかにかかわらず、今後数年でわれわれ全員が学習しておかなければならないことである。われわれが学習すべき対象を明確にするために、手始めにWikipediaのオンライコミュニティの項目を読んでみることをお勧めする。このことはつまり、コミュニティメンバーシップのライフサイクル(以下の図を参照)や、Kollock氏の提唱したフレームワーク、ユーザーへの普及モデル(Bass diffusion model)などの学術的なテーマや、その他の深遠な奥義について詳しく調べるということを意味している。
また、コミュニティに参加することで身を以てその秘訣を学ぶこともできる。しかし、ソフトウェアやプロセスにおける多くの側面と同様に、これにはツボというものがあり、それらを切り出して最適化できれば、最小限の努力で最大の効果を生み出せるようになるのだ。このため、知識を得るための最善の方法は、実地体験と凝縮された形式知を組み合わせるという作業となり、こういったことを行うことで初めて、コミュニティのテクノロジ面に取り組む用意が整うことになるというわけだ。