盲目的にカットするとケイパビリティギャップを生む
それでは、終わりの見えない世界規模での景気後退局面を迎えている現在、IT投資はどのようにすればいいのだろうか。不況や業績不振という局面では、たとえば仮想化技術によるインフラ統合、あるいはシステムに柔軟性をもたらすSOA化などの“IT特化型”投資を中止してしまうのが一般的と考えるだろう。しかし、沼畑氏は「ビジネス成長のための投資やIT最適化のための投資を盲目的にカットしてしまうことは、将来のケイパビリティギャップを生むことになり、ひいてはコスト自体のさらなる増大を招きかねない」と警告している。
IT投資の最適化という課題では「コスト最適化とコスト削減は必ずしもイコールではない」(沼畑氏)のである。こうした考えから同氏は「嵐が去るまで何もせずに待つのではなく、将来に備えてIT部門は行動を起こすべき」と主張する。
その方策として沼畑氏は(1)作らず利用する(2)備え、整える(3)捨てる・生かす・活用する(4)見える化する――という4つの原理を明らかにしている。また沼畑氏は、IT投資を(ア)ビジネス成長型投資(イ)IT特化型投資(ウ)オペレーションコスト(エ)隠れたコスト――という4つに分類する。
捨てる・生かす・活用する
(ア)の“ビジネス成長型”投資はビジネスに直接的なメリットをもたらすものだが、ここでは(1)の“作らず利用する”として、ビジネスチャレンジをするために、投資を抑えつつ早く効果を出すことが望まれ、効果のめどが立ったら拡大していけばいい、と提言する。具体策としては、SaaSやPaaSなどのクラウドコンピューティングを活用すべし、としている。
(イ)の“IT特化型”投資は、ITがITに投資することでIT全体の能力を高めるためのものだ。この投資では、(2)の“備え、整える”ような対応をすべきと説明する。たとえば、フレームワーク構築、ITポートフォリオ管理、方法論の整備、標準化などの対応策をすべきと説明する。
(ウ)のオペレーションコストは、IT投資の中で7〜8割をしめると言われているが、これは「過去のIT投資判断の結果」(沼畑氏)と言い表せる。この部分は、(3)の“捨てる・生かす・活用する”という原理で過去の意思決定を精査する必要がある。不要なIT資産は廃棄すべきであるし、使えるものはもちろん生かす。また、IT人材の再配置といった施策も打ち出すべきだろう。具体的な施策としてはアプリケーションの統合、インフラの統合、仮想化技術の導入、クライアントPCのシンクライアント化などが挙げられるとしている。
(エ)の“隠れたコスト”には何よりも(4)の“見える化する”ことが重要になってくる。つまり、ITの全コストを可視化してムダをなくして正しく使うことが重要だ。そのためには、IT投資管理、サービスレベル管理、IT資産管理などの方策を取るべきとしている。