スケールかニッチか
ここ数年、商社系を中心としてグループ会社間の統合を実施し、事業効率の向上とスケール・メリットの享受を狙う動きが見られた。一方、NTTデータのような最大手企業は、国内市場の成熟に伴い、海外へ成長の源泉を求めてM&Aを活発化させてきた。特に、最近のオフショア開発による開発原価の低減は、一定のスケールを前提としており、規模を求めざるを得ない状況を作り出している。
一方でニッチを攻める選択をする場合には、スケールによるコストメリットを補えるだけの特化したソリューション力が求められる。ノウハウ集約型の究極のモデルであるアプリケーション・ベンダーがオラクルやIBMなどに次々と買収されている現実を見るならば、いかに黎明期にある分野へと特化していけるかがポイントとなる。これはこれで容易ならざる生き方である。
ただ、こうしたスケール/ニッチといった区分けは提供者側の都合によるものである。顧客視点に立てば、こうした経済見通しの悪化は、IT投資をより変動費化したいというニーズに繋がる。これまで、特定の分野で進んで来たSaaSモデルへの需要が一気に高まるだろう。そこには、提供者側がスケール・プレーヤーであるか、ニッチプレーヤーであるかという区分は関係無い。
付加価値の源泉
企業の価値というものが、その企業の生み出すであろう将来キャッシュフローによって決まるのであれば、現在のような信用収縮過程においては、あらゆる企業がその実力如何によらずその企業価値は減退する。しかし、こうした状況においてこそ、その企業に残るビジネスというのは、その企業にしか出来ない付加価値ではないだろうか。その点においては、各社がどのようなビジネスモデルを採用しているかには依存しない。
スケールを求めていけば、究極的にはスケールを得意とするインドや中国のオフショアベンダーがグローバルレベルでは競合となる。一方、ニッチを求めていけば、ノウハウの集約という点において究極的にはアプリケーションベンダーが競合となってくる。また、スケールとニッチという二元論には収まらない新しいビジネスモデルへの移行というものも否定されるものではない。例えばSaaSのビジネスモデルは、グローバル・ニッチを可能とする形態と定義することも出来る。今後想定される新しい競争環境を認識した上で、これまでの路線を問い、正しければ進むべきだろう。
しかしながら、急速な経済環境の悪化は、各社が過去の失敗を繰り返すリスクを孕む。売上や利益を維持するために、従来の路線には相容れないビジネス機会であっても手を出す可能性がある。そして、それは短期的に売上を上げたとしても付加価値の毀損であり、企業価値そのものを中長期では押し下げるものとなるだろう。一定の財務余力があるならば、ここでいかに耐えられるかが、これまでの構造改革の成否の試金石となる。