#神話4:スイッチ1つで自社のITをクラウドコンピューティングに移行することができる。
クラウドコンピューティングサービスが比較的安価な選択肢となる理由は、それが個々のクライアント向けにカスタマイズされていないからである。プロバイダーはカスタマイズを行わないことで、規模の経済の利点を活かし、コスト削減を図ることができるわけである。こういった状況は、市場が洗練されるにつれて変わっていく可能性がある一方、企業は現在のところ、カスタマイズを行ってくれるような、あるいは垂直的市場に特化したサービスを見つけることに苦労している。
また多くのIT部門において、ITをサービスとして捉えるアプローチへと自身のアプローチを転換したり、インフラの一部を直接的なやり方でクラウドのプロバイダーへとアウトソーシングできるように簡素化したりするには、まだまだ多くの問題が待ちかまえているのである。
例えばストレージに関して言えば、コンサルタント会社Freeform DynamicsのサービスディレクターであるJon Collins氏によると、インフォメーションライフサイクルマネジメント(ILM)の根幹をなす原則である、階層化されたインフラというコンセプトを導入することに、企業は何年もの間、悪戦苦闘してきているという。
問題は、ほとんどの企業が「ビジネス上の観点から見て、どのデータをどこに格納しておくべきか」ということをきちんと整理できていない点にある。こういった基本的なことが整理されていないと、すべてのものをクラウドコンピューティングに移行しても真のメリットなど得られないのである。Collins氏の言葉を借りると「一部のデータが別のデータセンターに移動されることで、ネットワーク上に新たな依存関係が作り出されることになる」だけだというわけである。また同氏は、そういったサービスが「テストされておらず、準備も整っておらず、過大評価されており、何の保証もされていない」うえに、サービスレベルの合意もなされていないため、こういった移行を行う企業は、その規模の大小にかかわらず「ビジネス上の大きなリスク」を抱えることになるとも述べている。
さらに、セキュリティ上の懸念もある。プロバイダーはデータセンターをセキュアにするうえで、あなたの会社には用意できないくらいのリソースを保有しており、地理的に離れた場所にデータを分散、バックアップすることで復旧性を高めることもできると主張するだろうが、そういったことがすべてではないのである。
企業や公共部門の組織によっては、国をまたがってデータを分散させることでリスク管理や法規制の遵守に問題が生じる場合もある。また、大企業によっては、アプリケーションがまったく違っていたとしても、競合企業と同じ機器を共有するということを問題視する場合もある。
対処する必要のあるその他のリスクには、知的財産権の整理や、適切なセキュリティコントロールの確立といったものもある。後者には、要員審査の手順や、サプライヤーが倒産した際のことを想定した適切な手順も含まれている。