小説を読んで人生を疑似体験しよう--田代センセーのメンタルテクニック(19)

田代真人(マイ・カウンセラー) 2009年06月18日 08時00分

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 みなさんこんにちは! マイ・カウンセラーの田代です。不安や悩みを自己解決するメンタルテクニック。世の中の仕組みを理解すると自分の心のもちようがわかります。前回「『自分教』ができるまで、読書と映画の日々もいいではありませんか」と呼びかけましたが、最近不安に思うことがあります。それは、本が売れていないこと。ネットが登場して以来、インターネットが出版界を浸食すると言われてきましたが、まさに現在は危機的状況です。今回は、人々のメンタルにまで影響を及ぼすこの件について、少しお話ししたいと思います。

 前述のようにインターネットが普及している今、本が売れなくなっています。特に雑誌は次々と廃刊に追い込まれている状態。確かにそれも仕方のないことです。1日24時間しかないのですから、インターネットを見る時間が増えれば本を読む時間が少なくなってしまいます。以前は少し空いた時間に文庫をポケットから取り出して読んでいたのが、今では携帯電話で時間をつぶすようになりました。「日本では、電車の中でみんな漫画を読んでいる。なんとも恥ずかしい状況だ」と新聞が書いていたのは、いつのころだったでしょうか……。今電車に乗ると、本どころか漫画も読まず、みんな一心不乱に携帯電話の画面を見つめています。

 情報誌の側面が強い雑誌が廃刊になってしまうのは、より速報性が強く、無料で情報が得られるインターネットが出現した今、当然の成り行きとも言えましょう。ただ、私が気になっているのは、書籍、特に小説が少なくなっていることなんです。数年前にケータイ小説がブームになりましたが、あまりに質が低く、粗製濫造になった後、一気に下火になってしまいました。しかし、現在は質の高い小説さえも出版社が敬遠するような風潮です。出版しても売れるかどうかわからないし、売れない可能性が強いとなれば、1冊に数百万円をかけて「ばくち」を打ちたくない気持ちもわからなくはありません。

 製本された小説の発行が少なくなっている一方で、ネットで発表される小説は増えているようです。しかしネットでは課金が難しい。お金が取れないとなると「プロの小説家」が少なくなってきます。プロが少なくなるということは、質の高い小説が少なくなるということにも繋がります。アマチュア小説の質が悪いというわけではありませんが、ケータイ小説の衰退を見るに、やはりプロの小説家との違いは歴然なのではないでしょうか。

 では、その違いとは何でしょう? 私が思うに、いかに人々の想像力をかきたてるか、いかに人々の心を動かして感動させるかに尽きます。それぞれの物語に奥の深さがあり、いい意味で読者の期待を裏切る。底の浅い、すぐにその先が読めてしまうストーリー展開ではない、というものでもあります。

 そういう小説では、読者が喜怒哀楽を疑似体験できます。この疑似体験こそが大切なのです。ここを通して、人生における人の心の機微を学び、いろいろな出来事についての「耐性」ができてくる。そうして、人々は苦難を乗り越えていけるようになります。小説を読んでいる間、知らず知らずのうちに身についてくる能力なのです。

 私は経験上、膨大な数の人々の悩みに触れてきました。その実感として「真実は小説より奇なり」を痛切に思い知らされています。人生には思いもよらない、想像を絶する出来事が起こりえます。だからこそ、その「前哨戦」として小説を活用し、疑似体験すべきだと思うのです。いかにさまざまな疑似体験を経ていくか、それが重要なのです。

 上質な映画もいいのですが、どちらかというと私は文字だけの小説を薦めたい。五感をより刺激してくれますし、決められた映像ではなく映像すら自分の思い通りになります。アタマで描いた自分だけの小説の映画化ともいえます。こういう体験を数多くの人にしてほしい。だからこそプロの小説家が必要なのです。

 ネットでこう書くのもヘンではありますが、書店で書籍を購入する=書店に並ぶ書籍の一覧から立ち読みしつつ本を選ぶという行為は、人間が五感で生きている生物、つまりアナログである限り、変わらない感覚であり、行為だと思うのです。書店の数も少なくなっています。しかし、そうやって小説を選び購入することが良質なプロの小説家を生み、育てます。支払った代金は私たちに疑似体験として返ってくる。そして、それが人生の勉強に結びつくのです。そう思えば小説なんて安いものだと思いませんか?

田代真人
筆者紹介

田代真人
マイ・カウンセラー 代表取締役。九州大学工学部機械工学科卒業後、朝日新聞社を経て学習研究社へ。ファッション女性誌「ル・クール」編集者の後、主婦向け実用雑誌 「おはよう奥さん」の創刊メンバーとして、主婦の悩みを解決する「悩み相談センター」を開設する。その後ダイヤモンド社へ移籍し、「ダイヤモンド・ブレイク!」「ビットビジネス」など数々の雑誌を編集長として創刊した後、ビジネス開発本部副部長に就任。2006年、これまでの編集経験から「人々の悩みを解決したい」との思いに至り、マイ・カウンセラーを設立。2007年ダイヤモンド社を退社し、メディアプロデュース業のメディア・ナレッジを創業すると共に、マイ・カウンセラーの代表取締役に就任する。
ご意見、ご感想は mc-info@mycounselor.jp まで。

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