事業継続計画(BCP)を策定して、もしもの時に計画通りの効果を発揮させるにはどうすべきか。BCP策定で要の一つとなるのがデータセンターの活用の仕方である。では災害復旧(DR)対策を中心としたBCP策定でどのようにデータセンターを有効活用すべきなのか。
ガートナー ジャパンが先頃開催したイベント「ガートナー ITインフラストラクチャ&データセンターサミット 2009」では、DR対策を中心としたBCPでデータセンターをどのように有効活用すべきか、そのケーススタディとして、メーカーの山武を取り上げた。同社の業務システム部長の新井弘志氏が登壇。ガートナーのリサーチディレクターである石橋正彦氏がリードする形で、講演が行われた。
ウォームサイトですべてのシステムを“底上げ”
石橋氏は、DR対策に関する基本的な認識についてユーザー企業からの“よくある質問”という形で紹介した。ひとつは「ウォームサイト」と「コールドサイト」の違いである。日本ではこの2つの違いについて認識が十分ではないという。
またDR対策についてユーザー企業からは、「一部のマシンだけフェールオーバしても、工場が主体となっている製造業では、工場に付随したITシステムが稼働しないと意味がない」、「業務システムのリカバリポイントが汎用機の時代はバッチの前後で統一されていたが、現在は業務ごとにバックアップしているためデータを戻すと同期が取れない」などの声も多いという。
こうした現状がある中で「ユニークな取り組みをしている」として、石橋氏は今回山武を取り上げている。「今まではホットサイト中心で、優先順位の低いシステムには何もしない、BIA(事業影響度分析)は必要ないという考えでしたが、山武さんは違いました。ホットサイトが“正解”ではなく、ウォームサイトを前提に、すべてのシステムを“底上げ”することが重要と考えているのです」
石橋氏はこう語って、山武の業務システム部長である新井弘志氏にマイクを渡した。講演の論点は(1)山武の情報システム部門が抱えていた課題、(2)DRを想定したデータセンターを設計・構築するうえで考慮した点、(3)新しい環境への移行をどのように検討しているか――の3点である。
自前でウォームサイトを構築
山武は1906年に独工作機械メーカーの販売代理店として創業以来、100年以上の歴史を持つ計測機器と制御機器の専門メーカー。オフィスや工場などのビルディング・オートメーション、石油化学や半導体制御装置などのアドバンス・オートメーション、ガスや水道などのユーティリティ計測・制御・安全管理などのライフ・オートメーション――という3つを事業の柱にしている。
新井氏が部長を務める業務システム部は、業務を改革し支援するという意味で、その名を付けているという。他社の情報システム部門にあたる。部内は業務企画、業務開発、システム開発、運用、ソリューション開発という5つのグループで構成、約80人のスタッフが在籍している。
その業務システム部が取り組んでいるBCP/DRを時系列的に見ると、時代ごとに対応の変遷が分かる。1980年代の汎用機の時代はリカバリポイントが統一されていたが、オープン系で24時間業務の時代に移行するにつれてリカバリポイントが揃わなくなってきているという。
その後、2001年9月の米同時多発テロを契機にBCP策定がスタート、セカンダリサイトの構築が始まっている。そして現在、同社は自前でのデータセンター構築を進めるまでに至った。紆余曲折はあるものの、DR対策への取り組みは時代とともに大きく様変わりしている。
ガートナーの石橋氏は山武の新井氏の言葉を受ける形で「今データセンターでは、ハウジング業者が作るものと同じようなものが、かなり安い金額で作ることができるようになっています」と語り、ウォームサイト、コールドサイトそしてホットサイトを説明した。