8月20日、エプソンが法人向け製品の統一ブランドとして展開している「オフィリオ」シリーズの新製品として、データプロジェクタ6モデル、モノクロページプリンタ1機種を9月中旬から順次発売すると発表した。
この会見でエプソンが打ち出したのが、「ビジネス・ユーザビリティ」という新たなコンセプトであった。実は、この言葉に込められた意味は、これまでのエプソンの法人向けビジネス、そして法人向け製品のモノづくりを大きく転換させるものであったと言っていい。
「ビジネス・ユーザビリティ」で目指すのは、「ハイスペックよりも、必要十分スペック」。つまり、高価格、高性能、多機能を備えた製品を提供するのではなく、価格を抑えて、「必要十分」な性能、機能を備えた製品を提供するということだ。
エプソン販売、取締役マーケティングセンター長の中野修義氏は、「今後、エプソンが法人向けに販売するプリンタ、プロジェクタのうち、半数以上がビジネス・ユーザビリティのコンセプトのもとで製品化されたものになる」と見る。
日本のメーカーが投入する製品の特徴は、付加価値を中心としたものだ。そこに外資系メーカーとの差異化があった。しかし、エプソンが法人向けに投入するレーザープリンタをはじめとする各種プリンタ、データプロジェクタ、パソコンにおいて、付加価値を最低限に抑え込み、価格を優先とした製品戦略へと大きく舵を切るものとなる。
8月20日の会見で発表したデータプロジェクタは、いずれも売価で10万円を切る価格設定とした。これも「ビジネス・ユーザビリティ」を前提にした製品である。
「プロジェクタと言うと、多くの人が20万円するだろうという印象を持っている。だがここにきて、6万円以下のものが売れ始めている。これらのクラスの製品は、SVGA対応であり、一時期は消えかかろうとしていたスペックの製品。それが低価格化によって復活しつつある。ユーザー企業が、高いスペックのものを求めるのではなく、最低限必要となるスペックを持ち、それが手ごろな価格であれば購入するという意識に変化してきている。必要十分な機能の製品こそが求められている」とする。
経済環境の悪化に伴い、企業においてはIT導入コストの削減が進んでいるが、それも、ビジネス・ユーザビリティ型の製品が注目を集める要因のひとつとなっている。もちろん、最低限の機能を搭載し、価格戦略を展開する上では、限界利益のポイントが引き下がる。それを補うため、販売台数を大幅に伸ばす必要がある。
20日に発表したデータプロジェクタでは、今後1年間の販売台数目標は前年比2.5倍。市場予想価格で1万5000円前後という戦略的価格を設定した低価格モノクロレーザープリンタでは、今後1年間で前年比3倍の出荷台数を目指すことになる。
低価格化を図り、ボリュームを狙うという、ビジネスモデルの大きな転換ともいえる施策なのだ。
そして、「日本におけるプロジェクタの普及率は欧米の半分以下。SOHOや中小企業、部門へのプリンタの導入比率も低い。今後の大幅な普及が見込める製品だからこそ、ビジネス・ユーザビリティ戦略に効果が出る」という点も、ボリュームを狙う上では見逃せないポイントだ。
果たして、エプソンはこの戦略によって、法人市場をどうドライブするのか。販売台数、利益確保、用途提案などのすべてに、これまでとは異なる施策が求められることになる。