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僕を不安にさせる週末の日経新聞

飯田哲夫(電通国際情報サービス)

2010-06-29 08:00

 日本経済新聞も週末になると文化的色彩が濃くなる。それに応じて広告も企業広告などのビジネス的色彩が強いものから文化的なものへと様変わりする。しかし、そこに登場する広告の中に、結構強烈な個性で目を惹きつけるものがある。

 それは「純金 千両箱」だったり、「薬師三尊」だったり、不思議なブロンズ像だったりする。もちろん、それがすべてではないのだが、その異様さに目を奪われる。

何が僕を不安にさせるか

 広告というのは、そのメディアの読者属性に応じて出稿されるものだが、そこに「純金 千両箱」の広告が出ていたりすると、自分も千両箱を欲しくならないといけないのかなぁとか、あるいはあと一つ歳を取るとこの広告が気になってしまうのかなぁとか(ある意味とても気になっているが)、あるいは自分は間違ったメディアにアクセスしているのではないかと不安になる。

 しかし、新聞広告はマス媒体なので、精緻に自分にターゲティングされているわけではない。なので、「純金 千両箱」にそんなに過敏に反応する必要はないのだが、最近はメディアが細分化され、よりパーソナライズされているので、ついついあまりに自分の嗜好とかけ離れた広告が提示されるとかえって気になってしまうのである。

すべてがマイクロ化される時代

 デジタル化時代には、メディアが細分化され、コンテンツが細分化され、マーケティングも細分化され、あらゆるものがマイクロ化されて消費される。こちらの意向次第では、それがさらにパーソナライズされて、Amazon.comのようにこちらの嗜好をどんどんインプットして、より一層自分に最適化させることができる。人とのネットワークも、オンラインの世界では自分にとって心地の良い相手に限って張り巡らせることができる。

 そこには出し手も受け手も無駄がなく、お互いに必要な情報を獲得し、必要なネットワークをどんどん広げ、伝えたい人に確実にメッセージを届けることができる。そうしたマイクロ化された世界においては、「純金 千両箱」が紛れ込む余地はない。

失われる意外性

 しかし、そうした時代だからこそ「純金 千両箱」は意外性があって面白い。すべてがマイクロ化されると、異質なものが排除され、意外性が取り除かれてしまう。音楽は楽曲単位で購入されるから、アルバムに入っていたアーティストの別の側面は切り捨てられる。書籍は過去の購買履歴に基づいてリコメンドされるから、これまでと全く別のジャンルの書籍に出会う頻度は減ってしまう。そして、マイクロ化されたメディアで「純金 千両箱」の広告を見ることはない。

 物事が変化したりイノベーションが生じるのは、意外なものが組み合わさった時であることが多い。そうした中には多様性や意外性が求められるが、マイクロ化が進展すると、一見世界をどんどん広げているようでいながら、極めて同質なネットワークを拡張することに終始して意外性や多様性が排除されてしまう。だからといってマス媒体で「純金 千両箱」のメッセージを届けてくれれば良いと言っているわけではないのだが、メッセージの受け手側というのは、あえて通常とは異なるメッセージを受ける工夫を意図的にしていくことが必要だと思う。

 う〜ん。そのうち「薬師三尊」が欲しくなるのかな〜。不安だ。

筆者紹介

飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。

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