“Marketing 3.0”へ突入する米国オンライン証券

飯田哲夫(電通国際情報サービス)

2010-09-21 08:00

 ここ数日、複数の筋から「“marketing 3.0”ですよ」という投げ掛けをもらっている。“marketing 3.0”という概念自体は、マーケティングの大家であるPhilip Kotler氏が5月に出版した同名の書籍から来ているものだが、それをループス・コミュニケーションの斉藤徹氏がブログで紹介したのがどうもきっかけであるようだ。

“marketing 3.0”

 Amazonの書籍紹介によれば、“marketing 1.0”が「製品中心」で、“marketing 2.0”が「消費者中心」であるのに対し、“marketing 3.0”は「人間中心」と定義される。

 斉藤氏が上記ブログに掲載しているプレゼンテーションによれば、“marketing 3.0”の世界では、顧客は企業と付加価値を共創する。従ってマーケッターも顧客を、心を持つ人間、つまりパートナーとして捉えなくてはならないとしている。

 以前からテクノロジーが集合知を現実のものとし、企業を動かすと言われてきた。それは、当初ナレッジマネジメントツールという形で企業内に閉じた形で試みられてきた。一方、過去5年くらいの企業と顧客のコミュニケーションはブログなどの擬似的なインタラクションで試みられてきた。

 しかし、ここ数年のソーシャルメディアの急速な成長は、企業と顧客との関係を一気に変える可能性を持ち始めている。それを捉えたのが“marketing 3.0”という概念だろう。

米国オンライン証券業界における“marketing 3.0”

 “marketing 3.0”という問いかけとは全く別に、米国オンライン証券がソーシャルメディアに積極的であるという記事が「Wall Street & Technology」という金融系のオンラインメディアに掲載された。そこで語られていることは、米国オンライン証券がまさに“marketing 3.0”を試行しつつあることを示している。

 記事によれば、CharlesSchwabなどの米国のオンライン証券は、自社の提供するオンラインコミュニティーのメンバー数を大幅に伸ばしているだけではなく、そこで顧客から要望のあった機能やサービスを積極的に取り入れるという行動を取っている。TradeMonsterに至っては既に150ものアイデアを取り込んでいるという。一つ一つを取れば、異動明細をQuickenへインポートできるようにする、など他愛のないものであるが、それを150も積み上げるというのは金融サービス会社としては大したものである。

 もともと証券取引の領域は、証券会社や独立系のアドバイザーにしっかり相談したいという人たちと、自分で勝手に取引をする個人トレーダーに分かれている。一方、その中間の人たちへのサービスというのは難しかった。

 なぜなら、証券会社と積極的に接点を持つことを嫌がるので、思うようにメッセージを届けることができないからだ。しかし、そこへ登場したソーシャルメディアは顧客同士のコミュニケーションを活性化することで、証券会社が顧客の意図を読み取ることを可能にする。

 こうした証券会社の活用方法を見ると、“marketing 3.0”というのは、顧客の中でもニーズを汲み取りにくいセグメントを抱えていたり、そもそも顧客との接触が困難である業界にこそ向いているのかもしれない。そういう意味では、顧客との接点が対面からオンラインへとシフトしてしまっている銀行などもまさにそうかもしれないが。

筆者紹介

飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。

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