縮小する情報サービス産業の未来

飯田哲夫(電通国際情報サービス)

2010-10-12 08:00

 藻谷浩介氏の「デフレの正体」という本がある。藻谷氏は、曖昧な指標や平均値のようなデータではなく、個別具体的な実数を見ていくことで、現在われわれが直面している不況の本当の原因が見えるのだと論ずる。

 たとえば、われわれが当然のことのように捉えている地域間格差、つまり大都市と比して地方が不況であるという認識は、実数を確認すれば間違いであるという。つまり、地方以上に大都市の方が個人所得や小売業の売り上げの伸びは低調であり、実は、われわれが考える地域間格差が幻想であることが明らかになる。

 しかし、この本の議論の核心は、現在の不況が世界同時不況による景気変動の波ではなく、日本の生産年齢人口、つまり、働くとともに消費する世代が大いに減少することによっていることを明らかにする部分にある。要は、生産年齢人口の減少が消費の減少と企業業績の悪化を招いている、というのが日本の抱える不況の原因であるとする。こうした状況下では、特に内需型サービス産業が供給過多に陥り、価格競争が激化し、産業そのものが縮小する。

 日本の情報サービス産業は、インドなどと違って内需を主体とした産業である。そのため、藻谷氏の指摘の通りに競争過多となって単価の下落を招き、産業そのものが縮小する可能性がある。

 経済産業省の特定サービス産業動態調査によれば、情報サービス業の2007年度売上高が11.2兆円であるのに対し、2008年度は11.1兆円、2009年度は10.3兆円、とジワジワ減少の途上にある。2010年度も7月までのデータを見る限り前年同月を上回っている月はない。つまり、事実、産業が縮小しつつある訳だ。

 こうした状況下、各社はオフショア開発を拡大して原価の低減に努め、クラウドの拡充によりサービス提供の効率を高める努力を行っている。しかし、藻谷氏は、こうした価格下落の状況にあっては、コスト削減ではなく、付加価値の拡大によってサービス単価を向上させるべきだと主張する。

 なぜなら、現在の不況は生産年齢人口の減少という大きな流れに根本原因がある以上、需要縮小と価格下落の流れはいつか終わるものではなく、そこに救いは見出せないからである。

 日本の情報サービス産業の発展のためには、その需要を生み出す企業セクターの成長が必要となる。その時、情報サービス産業がその顧客のビジネスの効率化、つまり原価削減の支援のみを行っていても自らの成長も得られることはない。これは、ITによる効率化支援自体を否定するものではない。

 ただ、それと並行して、顧客のビジネスを創出するITというものが求められる。それこそが情報サービス業の提供し得る付加価値であり、産業の成長の源泉になるだろう。ITによって何を実現すべきなのか、日本そして情報サービス産業の未来を見据えて議論していく必要がある。

筆者紹介

飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。

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