IDCでは、クラウドを「インターネット、ネットワークを介して、リアルタイムでサービスを利用すること」と定義している。その特徴は、いつでも、どこでも、セルフサービスで利用できることだ。
このように、クラウドとは本来わかりやすいものであるはずなのだが、最近クラウドの実態が明確に把握しにくくなっている側面がある。それは「Web 2.0の発展系としてのクラウドと、エンタープライズITの理想系としてのダイナミックITが、融合でなく混在している」(松本氏)ことが背景にあるという。

クラウドを正しく理解するために、松本氏は「配備モデルとカテゴリーの2つの軸」を基準にみてはどうかと提言する。
配備モデルとは、パブリックとプライベートに代表されるサービスやコンテンツの供給の仕方と手法の属性による切り分けだ。カテゴリーの軸では、SaaSやPaaS、IaaSなどのように、インターネットによって供給される要素による分類。最近では、ホストの配備場所、資産の所有、リソースの共有/占有などの差異により、パブリックとプライベートの中間に、バーチャルプライベートクラウド、コミュニティクラウドなど、さらに詳細な区分があるという。
パブリッククラウドは「サービスが共有化、標準化、ソリューション化されて提供される。実装技術は特に問われない。従量課金になることが特徴だが、その制度自体より、ユーザー側の企業としては一定期間にどれだけそのサービスを利用したのかというレポートが行われることが重要になる」と松本氏は強調。レポートによって自社のITシステムを俯瞰でき、将来的な需要予測や次の進化への手がかりを得ることが可能だとする。
一方のプライベートクラウドは、ITの効率化が最も重要になるため、活用する技術的な要素が焦点となる。ここでは「どのような技術をどの程度まで導入しているか否かで、クラウドであるといえるのか、さまざまな見解がある」(松本氏)ことが注目される点だ。「たとえば、仮想化とサーバ統合化が完了していればクラウド化されているとの見方がある一方、自動化、セルフサービスまでが実現していなければクラウドとはいえないとする視点もある」(同)という。
このように、クラウドの論議には混乱が見られる面もあるが、松本氏は「クラウドはもはや一過性の流行ではなく、今後主流となっていくもの。よく理解した上で、自社の状況に適合した形式で取り入れ、クラウドの潮流に乗るべきだ」と話す。
導入に際して重要になるのは、クラウドそれぞれの特徴と、自社に必要な要素を見極めることだ。パブリッククラウドは高度なアプリケーションを手軽に利用できるほか、拡張/伸縮性に優れ、迅速性も高い。プライベートクラウドは柔軟性が高いことが大きな利点だ。
「自社のIT能力や企業規模などにより、最適な情報システムや導入手法は異なる。クラウドの適材適所をみつけ、各々属性の異なるクラウドを適用していくべきではないか」と、松本氏は提案している。