アイ・ティ・アール(ITR)は6月27日、国内企業を対象に実施した「企業IT利活用動向調査」の一部結果を速報として発表した。東日本大震災の影響により、国内企業のIT投資戦略に変化が生じているという。
調査結果によると、震災によるビジネス被害状況について「影響がなかった」と回答したのは全体の33%にとどまり、3分の2の企業は影響を受けたと回答した。そのうち、「本社もしくは重要拠点が被災」した企業は5%強だったが、「自社拠点の一部が被災」した企業は26%に上った。また、「調達先の被災により、事業が遅延」(22.8%)、「納入先の被災により、売上げを逸失」(12.8%)など、取引先の被災によってビジネスが停滞した企業もかなりの割合に上ったという。特に取引先の被災による影響は、東日本の企業だけでなく西日本の企業にまで広く及んでいるとITRでは説明している。
震災は2011年度が始まる直前に発生したが、今年度のIT予算の見直し状況については「実施済み」との企業が13%、「今後実施予定」とした企業は23%となった。見直しの方向性については、減額を予定する企業が増額を上回り、影響範囲は限定的ながら投資意欲がわずかに下降している様子がうかがえるとITRではみている。また、今後実施を予定している企業のほうが、投資意欲が後退していることも注視すべき傾向だと分析している。
震災発生後に各企業が実施した施策は、「全社的な経営計画の見直し・再検討」「個別の事業計画の見直し・再検討」といった経営や事業に直結する項目の実施率が高く、それぞれ20%を超える企業が実施済みであると回答した。また、被災や停電対応を目的とした「事業拠点の見直し・変更」「取引先、サプライチェーンの見直し・変更」についても、15%以上の企業が実施済みとしている。
ITRでは、ITに関連する施策は今後実施予定とする企業が多く、多くの企業がビジネスの立て直しに重きを置いた対策をとっていることがうかがえると分析。なお、「ITプロジェクトの中止」といったネガティブな施策については、実施する企業が一部にとどまる見通しだとしている。
ITRのシニア・アナリスト舘野真人氏は、「東日本大震災のビジネスに対する影響は、東北・関東の企業だけでなく西日本も含めた広範の企業に及んでいる。被害の大きさを考慮すれば、IT支出に対する影響は短期的には比較的軽微であると見られる。ITプロジェクトの中止・停止に踏み切る企業が少ないのも好材料だといえる。現時点では、全社的な経営計画や個別事業計画の立て直しが企業における喫緊の課題となっており、情報システムのディザスタ・リカバリ対策の進展やデータセンターの移設、強化といったITに関わる施策が本格化するのはこれからになると考えられる。ただし、今後に向けてIT投資意欲が減退傾向を示していることも事実であり、中長期的なIT投資への影響は予断を許さない状況だ」とコメントしている。
この調査は、一般財団法人 日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)からの依頼に基づき、5月20日から25日に実施された。国内企業の経営者、情報システム系および経営企画系部門の役職者6095人に対して回答を依頼し、500件の有効回答を得たという。