ネットユーザーを狙う犯罪者たちは、常に巧妙な仕掛けを企んでいるが、最近ではいくつものウェブサイトを経由した“エコシステム”でネットユーザーにマルウェアをダウンロードさせるのが流行している。ブルーコートシステムズが8月9日に発表した「2011年上半期セキュリティレポート」で、そうした実態が明らかになっている。
このマルウェアのエコシステムを同社は“マルウェア配信網(Malware Delivery Network:MDN)”と命名している。一般的に安全とされている信頼できるウェブサイトに“エサ”を配布して、リレーサーバにユーザーを巧みに誘導する。そしてユーザーのPCに潜むソフトウェアの脆弱性を狙い、マルウェアを感染させるという仕組みだ。ユーザーはウェブサイトを移動することになるが、脆弱性を狙われていることや、脆弱性を狙ったマルウェアをダウンロードすることには気付くことができないという。
ブルーコートが1~5月に検出したMDNで最も規模が大きく、影響度も高いのが「Shnakule」である。このShnakuleは、「Gumblar」に代表されるドライブバイダウンロード攻撃、ニセのウイルス対策ソフトやコーデック、ニセのFlashのファイル、Firefoxのアップデート、ボットネットへの指令や管理などの攻撃も仕掛けてくる。
MDNへの入り口としては、検索エンジンやポータルサイトなどでのSEOポイズニングが大きな割合を占めている。米Blue Coat SystemsのシニアマルウェアリサーチャーのChris Larsen氏によると、MDNに誘導されるユーザーの39.2%がSEOポイズニングによるものだという。
この時に関連キーワードとして、ポルノやギャンブル、医薬品などがあるとしている。これらの関連キーワードで検索すると、犯罪者に仕込まれた悪質なウェブサイトが検索結果として表示され、そのウェブサイトがMDNにつながるサイトになるのだ。
「SEOポイズニングでは、テキスト検索よりも画像検索の方がより危険。画像や海賊版コンテンツの検索結果の先は、MDNの可能性がある。そうしたユーザーはマルウェアの影響を受けやすい傾向がある」(Larsen氏)
MDNへの入り口はSEOポイズニングだけではない。Gmailなどのウェブメールからが6.9%、ポルノサイトからが6.7%、FacebookなどのSNSからが5.1%という状況だ。
Shnakuleは、ネットユーザーを誘い込むことに長けており、Blue Coatに寄せられたウェブページへのリクエストは1日の平均で2万1000件、最大で5万1000件という。Shnakuleは1日平均で2000もの個別のホストネームを持っており、その数が最大4300に達した日もあったと分析している。
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Shnakuleは単体のMDNとして規模が大きいだけでなく、その中に複数のMDNを抱える点でも影響が大きいと説明している。1~5月に検出された「Ishabor」や「Kulerib」、「Rabricote」、「Albircpana」といったMDNは上位10位にランキングされているが、実際にはこれらのMDNはShnakuleの一部であり、ギャンブル関連のマルウェアなどを配信しているという。
Larsen氏は「危険と評価されているウェブサイトへのアクセスをブロックしてもダメ」と警告する。MDNは動的に変化しており、「MDNによって、安全性に問題のないウェブサイトにマルウェアが仕込まれることもある」(Larsen氏)からだ。まだ安全かどうか評価されていない、できあがったばかりのウェブサイトもMDNに組み込まれることもあるとしている。
Larsen氏はMDNから保護するために「フィルタリングでポルノやギャンブルなどの関連サイトへのアクセスを禁止するのに加えて、.exeなどの実行ファイルをダウンロードしない、ファイアウォールやウイルス対策ソフト、レピュテーションなどによる多層防御を講じるべき」と主張している。