リタイヤメント層から若年層へ
先進諸国の経済が痛み、新興国がそれを補うように成長する。その先進諸国では、資産を保有していたリタイヤメント層が保守的となり、もはや消費者として大きな期待が持てなくなりつつある。そうした中、米国の金融サービス業は、リタイヤメント層から若年層へその軸足を大きく変えているようだ。
例えば、米国の大手ネット銀行であるING Directは、10代をターゲットとした1000万ドル規模(約7.7億円)のキャンペーンを開始した(NetBanker)。その主たる媒体はFacebookである。また、8歳から12歳までの子供をターゲットとした金融サイトを立ち上げようとするTykoonはベンチャーキャピタルから135万ドル(約1億円)を集めたという(TechCrunch)。
つまり、保守的なリタイヤメント層にいつまでも固執せず、これから貯蓄し消費する子供たちをしっかり取り込んで行こうという動きがいよいよ本格化してきている。あるいは、リタイヤメント層も子供たちにだけはしっかりお金を使うということだろうか。
その時の主役は誰か
さて、9月19日に米国でGoogle Walletが正式にリリースされた。そのサービスを裏で支えるのはCitibankやMastercardのような既存の金融プレーヤーである。しかし、そのフロントエンドを担うのはGoogleである。つまり、これから金融サービスを使い始める顧客層が認知するのはバックエンドの金融機関ではなく、フロントエンドのGoogleということになる。
また、ここ最近の金融系ベンチャーの一つの傾向として、バックエンドを既存の金融機関に任せつつ、フロントエンドの新サービスの開発のみを担うというケースが出てきている。例えば、SmartyPigという貯蓄サービスは、ソーシャルメディアやリテーラーと連携したユニークな貯蓄口座を提供するが、そのバックエンドは提携している銀行に任せている。現在立ち上げ中のBankSimpleも同じモデルである。
つまり、金融サービスがリタイヤメント層から若年層へターゲットを変えた時、そこには金融機関を押しのけて新しいフロントエンドプレーヤーが幅を利かせるようになる可能性がある。その背景には、消費者と金融機関との接点、消費者同士の関係性があまりに急速に変化しているからだろう。
変化に追い付けないレギュレーション
金融機関のサービスは、社会を支えるインフラである。それ故に金融機関には厳しい規制が課されていて、それを破ることは自らの役割を否定することとなり、社会的にも大いに批判を浴びることとなる。それ故に、新しいサービスを提供するに際して、まずは規制の枠組みが出発点となる。
一方、ベンチャービジネスは、テクノロジの変化や社会の変化を捉えて新しいサービスの提供を開始する。それはしばしば従来の枠組みでは捉えられないものであるが故に、金融業界や規制当局からの攻撃に晒されることもある。しかし、そのせめぎ合いが新しいサービスの実現を可能とする。
レギュレーションは、基本的には変化を後追いする。一方のベンチャーは変化を出発点とする。だからと言って、新しい金融サービスが規制枠を逃れることが許される訳ではない。
既存の金融サービスが新しい金融サービスを排除せず、イノベーションのビークルとして取り込んでいく−−そんな姿勢が金融サービス全体をより豊かなものとするだろう。そのためにも、金融領域において、新しいベンチャービジネスが次々と出てくるような支援体制が既存の金融機関、規制当局、ベンチャーキャピタルなどには求められる。
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飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。