アマゾン データサービス(AWS)ジャパンは9月13日から2日間、ユーザーイベント「AWS SUMMIT TOKYO 2012」を都内で開催した。初日の9月13日は「Go Global!」をテーマに、世界にビジネス展開する日本企業のIT基盤として、AWSが提供するクラウドインフラが適していることを、最近の技術的な取り組みや導入事例を交えてアピールした。
基調講演を務めた米Amazon Web Servicesのバイスプレジデント、アダム・セリプスキー氏はストレージサービス「Amazon Simple Storage Service(S3)」に蓄積されたファイル数について「2011年度第4四半期に7620億にのぼり、前年の3倍に増えた」として、ユーザー数の急増を数値で裏付けた。
基調講演を務めたバイスプレジデント、アダム・セリプスキー氏
日本法人の長崎忠雄社長によると、この1年でパートナー企業は30から77、開発者コミュニティは12から24に増え、さらにスタートアップ企業を支援する組織「Startup Hub」が新たに立ち上がった。
長崎氏は「この1年でエンタープライズ領域でAWSが浸透した」と話す。具体的には、ウェブアプリケーションの領域で花王、講談社、朝日新聞社、福岡市などがAWSを採用。SAPなどのビジネスアプリケーションの領域で電通やガリバー、ケンコーコムもユーザーとなった。ビッグデータおよびHPCではアンデルセンや九州大学、ディザスタリカバリでは東芝が加わった。
この日、アプリケーション領域に関連して、国産の大企業向けERPとして知られるワークスアプリケーションズが、ERP製品「COMPANY」をAWSに載せ、エンドユーザーにサービスとして提供すると発表した。
なぜエンタープライズでの利用事例が増えているのか。以前から「高信頼性が求められるシステムをクラウドで置き換えるのは難しい」という指摘があり、今も根強い。だが、AWS自身や導入パートナー企業の努力もあり、クラウドへの心理的抵抗がここに来て少しずつ薄れてきているようだ。
パブリッククラウドの信頼性向上の取り組みの1つとして、地震など自然災害への対応力が挙げられる。AWSはこの日、データセンター拠点の1つである東京リージョンに、新たな「アベイラビリティゾーン」を開設したと発表した。
これで、東京リージョンでのアベイラビリティゾーンは合計3つ。可用性を高める仕組みであるアベイラビリティゾーンは、1つのリージョン内にある複数のデータセンターで構成される。それぞれ電力、冷却、物理的セキュリティの面で、ほかのアベイラビリティゾーンから独立して運営されているため、地震の際に1つの拠点に障害が起きても、他の拠点がカバーできる。
このあたりの例は、データセンターを自社運営するよりも、AWSなどのパブリッククラウドを利用した方が可用性を確保しやすいことを示す。東日本大震災後、自然災害への対応に特に注目が集まるようになっており、ユーザーの目にはAWSのようなサービスがそれ以前より魅力的なものに映っても不思議はない。
さらに、日本企業が海外向けに事業展開するいわゆる「グローバル化」の意識の高まりも、AWSには追い風のようだ。
この日ユーザーを代表して登壇したうちの1人は、朝日新聞社の国際本部国際業務担当部長、池田伸壹氏だった。池田氏は、120年前の朝日新聞の紙面を写真で紹介。「当時、最新鋭だったフランス製のマリノ式輪転機を導入。国会の議事録をすばやく紙面化し、これも当時最新鋭だった鉄道に乗せて関西へと新聞を届けられる」という変革を伝える記事だ。
120年あまり前の11月23日の朝日新聞紙面
「当時も今も、その時代の技術を事業に取り入れることの重要性は同じ」と池田氏。朝日新聞社は、「英字新聞」のデジタル化、紙面の英語版配信を2011年に、今年に入り中国語版と韓国語版も併せて提供を開始した。東日本大震災の際に、朝日新聞のFacebook英文情報発信ページで押された「いいね!」は、震災前の80から、3月中にあっという間に1万人規模に増えた。現在は16万人で、中国では80万人以上に上るという。この出来事により「日本のメディアによる国際発信の必要性を確信した」(池田氏)。