知的資産という概念がある。これは、企業の評価に際し、特許権や著作権のような知的財産権に留まらず、人材、顧客、経営力、技術力などの無形資産を広く捉えようとする考えである。しかしながら、知的資産は財務データと比して定量的に測ることが難しく、企業評価に活用することが難しいと言われている。
これは個人についても同様で、貸出評価などにおいては、現在の収入や過去の返済履歴など、主として金銭面での評価のみが行われる。しかし、個人についても、金融資産だけではなく、人的なネットワークを評価対象としようという動きがある。具体的には、SNSを活用した“ソーシャルアセット”とでも呼ぶべきネット上での影響力を評価する考え方が定着しつつある。
例えば、立ち上げ準備が進んでいる米国のベンチャー企業、ムーブンバンク(Movenbank)では、CREDという概念を導入している。これは、顧客の金融資産や金融取引履歴に、ソーシャルネットワーク上での影響力を加味してクレジットスコア(個人の信用力を数値で表したもの)を算出するものである。
しかし、ソーシャルネットワーク上での影響力をどう測るか、これはまだ歴史が浅いだけに思考錯誤が続いている。単にTwitterのフォロワーが多ければ、それが社会的信用力や経済力に繋がる訳ではない。肝心なのはその質を見極めることだ。そこが見えにくいだけに、企業もSNSを使いあぐねているところがある。
Bloomberg BusinessWeek誌によると、ソーシャルネットワーク上での影響力を測るサービスでも新規参入組が新しい試みを行っているという。この分野の草分けは、2008年にスタートしたクラウト(Klout)というサービスである。
個々人のソーシャルネットワーク上での活動について、400のデータポイントから情報収集を行い、0~100の間で点数化する。データポイントには、Facebook上での友達の数や、投稿に対する反応、あるいは、Twitterでのつぶやきに対するリツイートの比率など、複数のソーシャルネットワークでの活動が加味されている。ちなみにオバマ大統領が99ポイントだそうである。
これに対し、新規参入組は、よりセグメントを明確にしたアプローチの重要性を示唆している。つまり、企業がSNSでの個人の影響力をマーケティングに活用するためには、その人物が「対象とする商品やサービス」に影響力を持つことが重要なのだ。つまり、オバマ大統領のように、みんなに知られているとか、人気があるとかは、企業からすればそれほど重要ではない。
BusinessWeekによると、今年の10月に設立されたテラジェンス(Tellagence)やリトルバード(Little Bird)は、特定のビジネスカテゴリ(例えば、携帯電話の開発)におけるインフルエンサーを特定することを重視している。そして、そのために行動モデルやアルゴリズムを開発しているという。つまり、仮にSNS上でのコネクションが少なく、Kloutスコアが低くても、特定の領域における影響力だけは凄まじい、という人物を見出すことが重要なのだ。
こうしたアルゴリズムの開発により、個々人が金融面だけではなく、多角的に評価されるようになるのは良いことだと思う。とは言え、結局は全てが経済価値に換算されるのも事実であり、換算できないものは価値として認識されない。ビジネス目的で行われている以上、本当の意味での人間の多面性を図ることは出来ないだろう。ソーシャルネットワーク上での活動が逐一経済価値に換算されてしまうかと思うと、SNSもまた味気ないものになってしまいそうだ。
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飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。