フランスと言えば、CSA(視聴覚最高評議会)なる組織があって、自国の放送においてフランス語のコンテンツを一定以上とすることを求めるなど、自国文化の保護に積極的な国である。そんなフランスだからこそ、「テレビ、ラジオ局が『Twitter』『Facebook』などSNSを、報道以外の目的で名指しすることが禁止された」(CNN.co.jp)と聞いても、決して不思議な感じはしない。
先月、G8の前にパリで開催されたe-G8。Sarkozy大統領の呼びかけで、Google会長のShcmidt氏やFacebookの最高経営責任者(CEO)のZuckerberg氏など、世界各国の主要IT企業の幹部が招かれた。しかしながら、ここでも一定の規制を求める政府側と、それに反対するIT企業側の隔たりが明らかとなったばかりであった(ロイター)。
そのパリも19世紀末から20世紀前半には、ピカソ、シャガール、モディリアーニ、ゴッホ、フジタなど、世界中からアーティストが集まり、異文化が融合する都市であった。またアフリカ美術や日本の浮世絵などをその作品に取り込むなど、新しい文化へも貪欲であった。つまり、戦前までのフランスは、文化の集積地であり、排除するよりも受け入れることがその本質であった。
20世紀後半になると、新興国の文化に対する関心は、先進国と新興国という二項対立の図式として批判されることとなる。その後に登場するのがグローバリゼーションであり、マルチカルチャリズムである。この流れは、二項対立ではなく多元的な世界観を反映することを目指す。こうした動きを加速させる一つの触媒として、Facebookをはじめとするインターネットを通じたコミュニケーションが重要な役割を担っているのはご存じの通りである。
こうしたグローバリゼーションの流れに関しては、それが世界の均質化に繋がるという捉え方と、固有の文化の活性化に繋がるという捉え方に二極化する傾向がある。フランスにおいては、均質化、特にアメリカ文化による強い影響を嫌気し、インターネットに対する保守的な姿勢や固有サービス名の使用禁止へ結びついていると言われる。
しかし、仮にテレビやラジオで「Twitter」や「Facebook」という言葉を使わなくなったところで、広く利用されていく実態を止めることが出来ない以上、それを自国文化とどう融合させていくかを考える方が建設的である。とはいえ、私はグローバリゼーションが均質化に繋がらないとは断言出来ないと思う。守る意思を持たなければ言葉も文化も失われてしまう。
要は、外部からの影響がある中で、それをどう取り込み、その刺激をどう固有文化の発展に結び付けるかを考えるカルチュラルマネジメントの発想が重要だ。そして、それは決して排除することによっては成しえない。排除するよりも、どう取り込みながら固有文化を発展させるか、この発想があって、初めてグローバリゼーションは多様化と同義に成り得るだろう。
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飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。