通信のゆくえを追う

競争か協力か--通信キャリア、OTT陣、端末メーカーの微妙な関係

菊地泰敏(ローランド・ベルガー)

2013-06-20 07:30

 今から遡ること約30年、1985年に自由化されるまでは通信事業者(キャリア--当時は電電公社とKDD)がネットワークを提供し、黒電話で音声通信を行い、せいぜいファクスやテレックスがテキスト情報を遠隔地に伝える、というのが通信の世界であった。

 インターネットもなければ携帯電話もなく、もちろんSNSなどその芽すら感じられることはなかった。コンピュータは既に世の中に存在していたものの、スタンドアローンで使うことが通常であった。コンピュータネットワークという概念は比較的新しいものなのである。

 その後、主にデータ通信と無線技術の開発が進むにつれ、今日の情報通信産業のエコシステムが作り上げられていった。インターネットと携帯電話の普及が今日の通信産業に大きな影響を与えたのは事実であるが、まだその時点ではキャリアがそのエコシステムの頂点に君臨し、全体を指揮統括していたのも事実である。

 ほんの少し時計を戻して振り返っただけでも、iモードの隆盛でNTTドコモがわが世の春を味わっていたことが思い出されるであろう。

 しかしながら、今日あるいは将来に向かっては、キャリアが、あるいはほかの誰かがエコシステム全体をコントロールするのはもはや不可能であろう。“OTT(Over The Top)”Playerと呼ばれるFacebook、LINE、SkypeなどのアプリケーションプロバイダーやAppleを中心とした端末ベンダーも、そのエコシステムをコントロールすべく、キャリアに大きな脅威を与えている。

OTTの目論見

 OTTにとってはキャリアフリー(ユーザーがいずれの通信事業者を利用していようとも同じサービスを提供できるということ)でユーザーに使ってもらうことで、そのエコシステムの中心に座ろうという目論見がある。

 端末プロバイダーにしてみれば、iPhoneをはじめとする魅力的な端末を提供することでキャリアをコントロールしようとしている。ユーザーがまず端末を選び、その後、その端末を利用できるキャリアを選ぶ、という方向性が出てきたのである(ソフトバンクの躍進は、iPhoneの早い導入であったことに異論はないであろう)。

 余談であるが、そもそも端末を“端末”と表現するのは、キャリアが中心に位置し、ユーザーがエコシステムの末端におり、その末端のユーザーが使うデバイス、という概念であることを如実に表している。ユーザーを中心に考えれば、端末はすべてのサービスの窓口であり、入り口なのである。

 ついでに言えば、OTTをOver the “Top”というのも同様である。キャリアが提供しているレイヤまでがサービスの範囲で、その“上”に位置するのがOTTだ、ということである。

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