7月に、「平成25年版 情報通信白書」が刊行された。情報通信白書は、総務省が主体となって各委員会や有識者の見解も含めて日本の情報通信技術(ICT)や情報通信政策の現況について、広くまとめている資料である。
現在、経済や社会構造の変化やクラウド、ビッグデータなどの新しいICT技術の普及に伴い、政府の情報通信政策にも大きな変化が見られる。その中で総務省が今年の情報通信白書の編集方針として取り上げたのが、「スマートICT」「社会問題解決」「安心・安全」である。
本記事では、各トピックについて概要を解説しながら、既存のビジネスや新しいビジネスの可能性についての展望を示していく。今回は、中心のコンセプトであるスマートICTと、ビッグデータの展開、個人情報とセキュリティの問題について取り上げる。
「スマートICT」とは?
情報通信白書の特集で最初に取り上げられているキーワードが「スマートICT」だ。ICTは「成長のエンジンであり、あらゆる領域に活用される万能のツールとして、経済成長や社会問題解決の要の位置にある」というICT観のもとで、様々な近年登場した技術が幅広く活用されることを総称して「スマートICT」と呼んでいる。
スマートICTは、「ビッグデータ、ソーシャル、Machine to Machine(M2M)、センサーネットワークなどのICTの最新トレンド」を指す。これらの技術は、パソコンやインターネットが起こした変化のさらに次に起こる「ユーザー革命」の立役者となる。ユーザー革命は、パソコンやインターネットの時代のさらに先にある、常にソーシャルなつながりとICTサービスを受けられる状況である。
スマートICTは技術や適用される課題の幅が非常に広く、わかりにくい定義になっている。まず最初にスマートICTが目指す方向性についてまとめた上で、具体的にどのような技術が、どのように役に立つかということを紹介する。
スマートICTが目指すもの
従来からICTは、経済成長の要素の全てに対して貢献できるとしている。具体的には、従来からの労働生産性や生産手法の改善に加えて、製品やサービスにビッグデータやスマートフォンの活用が融合されて、付加価値が増す。また、ICTの活用が活発になるにつれて、経済成長のエンジンとなっているICT産業自体が成長するという側面もある。
一方、少子高齢化、エネルギー問題、地方の疲弊、財政の悪化などに対する万能ツールとしての、ICTを用いたイノベーションの役割も向上している。その好例が、フィンランドにおけるデマンドサイドイノベーション政策だ。フィンランドでは、従来からの新製品、サービスの開発に利用されてきた手法を、社会的問題(デマンド)や先進ユーザーを中心としたイノベーションに拡張する試みをしており、成功を収めている。つまり、公共分野が率先してイノベーションを行っているのだ。
以上を踏まえたものが「ユーザー革命」である。まず社会インフラをセンサデータなどのビッグデータの処理によって、改善することができる。また、スマートフォンによってソーシャルネットワークに常に接続可能になり、ユーザー自身がICTサービスの利用のみならずフィードバックも可能になる。このように、データ解析からユーザーの貢献までの一連の流れによって、社会、経済ををより良くできるのが「スマートICT」だといえる。
ICT成長戦略-全体像-出典:「平成25年版情報通信白書」(総務省)