本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉をいくつか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、サイボウズの代表取締役社長、青野慶久氏と、米LivePersonの最高経営責任者(CEO)、Robert LoCascio氏の発言を紹介する。
サイボウズの代表取締役社長、青野慶久氏
「クラウド事業はいつでも黒字にできる」(サイボウズ 青野慶久 代表取締役社長)
サイボウズがクラウド基盤「cybozu.com」上で手軽に業務アプリケーションを構築できるようにしたPaaS型のクラウドサービス「kintone」の販売戦略に関する記者発表会を開いた。青野氏の冒頭の発言は、その会見で、クラウド事業の業績について「経営者の実感として」と前置きしながら自信のほどを語ったものである。
新価格体系やシステムインテグレーション(SI)ビジネスの強化などを打ち出したkintoneの販売戦略の内容については、関連記事をご覧いただくとして、ここでは青野氏が会見で語ったクラウド事業の業績にまつわる話にフォーカスを当てたい。
青野氏はまず、同社の連結売上高が4月以降、前年同月比15%を超える伸び率で推移していると説明。好調な要因について「従来のパッケージ事業の売り上げをほとんど減らすことなく、これまで2年間展開してきたクラウドの売り上げが積み上がってきたため」とした。ただ、クラウド事業はまだ赤字状態が続いているという。
このままでは、業績全体として売上高利益率も低下する一方なのではないか。そんな懸念を青野氏にぶつけてみたところ、返ってきたのが冒頭の発言である。
青野氏がクラウド事業をいつでも黒字にできると確かな手応えを感じているのは、顧客ベースが増えて売り上げが着実に積み上がっている一方で、さらなる事業の拡大に向けて投資しているからだ。さらに今年に入って全体の売り上げの伸びが好調なことから、売上高利益率も上向いている。
だが、青野氏はどうやら売上高利益率にはこだわっていないようだ。それを証拠に、同社は6月下旬に発表した2013年12月期の連結業績予想の修正で、売上高は前期比17.6%増の48億7000万円としながらも、経常利益は7000万円と前期4億9600万円の14%の水準になるとした。
この業績予想については12月24日に再度修正を発表し、売上高51億5000万円、経常利益1億9800万円とした。それでも売上高経常利益率は3.8%と、かつては最高で30%近く、最低でも10%を超えていたことから考えると、大きな落ち込みようだ。
とはいえ、実は同社が11月中旬に発表した今期第3四半期(2013年1~9月)の業績では前年同期比43.7%増の6億6700万円の経常利益を計上しており、17.7%の売上高経常利益率を記録している。それが通期予想ではそれぞれ1億9800万円、3.8%になるというのだ。
なぜか。青野氏によると「クラウド事業が順調に伸びてきているので、第4四半期は最大限の投資を行っている」という。つまり、クラウド事業はいつでも黒字にできるが、今はそれよりも投資して拡大するのが重要だということだろう。同氏はその根底にある思いを次のように語った。
「クラウド事業で成功しているAmazon.comやSalesforce.comも今の段階では利益を度外視して投資を続け、事業規模の拡大に注力している。当社はこれからそうしたところと戦っていかなければならない。最初から体力勝負はできないが、投資をためらっていてはいけないと肝に銘じている。短期的な利益を追うのではなく、本気で世界を獲りに行く覚悟だ」(青野氏)