本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉をいくつか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、日本HPのHPサーバ事業統括本部長、手島主税氏と慶應義塾大学大学院の教授を務める渡辺美智子氏の発言を紹介する。
「もはやx86サーバでボリュームばかりを追求する時代ではない」 (日本HP 手島主税 HPサーバ事業統括本部長)
日本ヒューレット・パッカード(日本HP)が先ごろ、2014年のサーバ事業戦略および新製品に関する発表会を開いた。同社のサーバ事業を統括する手島氏の冒頭の発言は、その発表会見において、2013年11月にHPグローバルで実施したサーバ事業の再編について説明した中で、つい本音が出たとも言えるものである。
日本HPの手島主税 HPサーバ事業統括本部長
手島氏によると、サーバ事業の再編については、これまで「UNIX」「フォールトトレラント」「x86」とプラットフォームのテクノロジ別に分かれていた製品グループを、高性能コンピューティング(HPC)や大規模データセンター向けの「ハイパースケールサーバ」、企業の基幹システム向けの「エンタープライズサーバ」、データセンターや企業システム向けの「コアサーバ」と用途別に再編し、これに伴って事業体制を刷新した。
製品グループそれぞれの大きな狙いとしては、ハイパースケールサーバがワークロード特化型の推進、エンタープライズサーバが次世代ミッションクリティカル基盤の推進、コアサーバがサーバからデータセンターに至る自動化の推進にあるとしている。
HPがサーバ事業を再編した理由
会見で説明があった事業戦略と新製品の詳しい内容については関連記事を参照いただくとして、ここではHPがサーバ事業の再編を行った理由についてフォーカスしてみたい。
手島氏はその理由について、「IT市場は今、モバイル、クラウド、ソーシャル、ビッグデータといった4つの新しいトレンドが大きなうねりとなってきている。HPではこの4つのトレンドによる利用環境を“New Style of IT”と呼んでいるが、これがまさに世の中を変えようとしている。そうした中で、HPはITベンダーとしてどのような提案をし、責務を全うして社会に貢献していくのか。そこに立脚して今後のサーバ事業の在り方を考えた結果、今回の再編の姿になった」と説明した。
手島氏がその説明の中で幾度も強調していたのが、「HPはテクノロジにこだわる」ということだ。メーカーであるHPだけに当然のように聞こえるが、つまりはテクノロジによってHPならではの付加価値を提供するということだろう。
冒頭の発言は、事業再編をめぐる説明の終わり際に、手島氏が自らにも言い聞かせるように力を込めて語ったものだ。つい本音が出たようだと前述したが、それはここ数年のサーバ市場の動向を踏まえて、筆者がそう感じたからだ。
ここ数年のサーバ市場はx86サーバが主戦場となっているが、この領域は厳しい低価格競争にさらされてきた。つまり、たとえ製品が売れても収益が出ない市場構造になってきているわけだ。ベンダーとしてはこの市場構造を変えていかないといけないところに来ていた。さらに、UNIXサーバ市場も長らく縮小傾向が続いており、抜本的なてこ入れを迫られていた。